バリーは何度もアルに礼を言うと、3人は図書館を後にした。バリーとジョージは、大いに喜んだ。学習障害のせいで、両親に邪魔者扱いされてきたアンだったが、彼女は誰よりも素晴らしい才能に満ち溢れていたのだ。 「誇りに思うよ、アン!」 ジョージがアンを抱き上げる。アンは赤面しながらも、満面の笑みを浮かべていた。それを見ていたバリーは、自分の中で、ある決断を下そうとしていた。 「バリー、どうしたの?」 アンが立ち止まっていたバリーに気付く。 「何でもない」 バリーが応える。 「ちょっと、用を思い出した」 そう言うと、バリーは二人と別れた。
大学へ戻ると、バリーは大学事務局へ赴き、大学院・ロースクールへの共通試験LSATの受験をキャンセルした。 事務局を出ると、背後からバリーを呼び止める声が聞こえる。振り返ると、奇妙な格好をしたヘザーが、バリーに抱きついた。反戦運動の若者たちに流行り始めていた、ヒッピースタイルの服装だった。 「愛してるわ・・・」 紺碧の瞳を潤ませ、ヘザーが唇を求める。バリーはそれに応じ、ヘザーの頬を撫でた。 「ヘザー」 バリーは眠気を誘うような、ヘザーの瞳を見る。 「クスリは、もう止めろ」 バリーの顔を見上げると、ヘザーは微笑を浮かべた。 「大丈夫よ・・・LSDに、常習性は無いもの」 バリーは表情を変えず、ヘザーを見た。 「前よりも、貴方が愛しいの。これ以上の幸せは、無いわ」 眠そうな瞳は、かなりの酩酊状態であることを示していた。バリーが手を放すと、今にもその身体は倒れそうなくらい、不安定な状態だった。 「マンションまで、送ってやるよ」 ヘザーの不可解な言動は、このクスリによるものだった。 ベトナム反戦運動で平和を叫び、彼らは禅や瞑想体験を得る為に、LSDとマリファナを使っていた。バリーは彼女がこのクスリに溺れていると、以前から気付いていた。 ヘザーの車で、彼女のマンションに着く。助手席のヘザーは眠り込んでいた。バリーは彼女を抱き上げ、4階の部屋まで運ぶ。部屋の中に入ると、いつものバラの香りが消え、マリファナの甘い臭いが染み付いていた。 バリーは彼女をベッドの上に寝かせると、シーツを被せ、そっと放れようとした。 「行かないで・・・」 ヘザーがバリーの腕を掴む。 「お願い・・・」 バリーは冷ややかな表情を崩さないまま、ヘザーを見ていた。 「愛してるわ・・・」 そっとバリーの頬に手を当てると、口づけを交わす。そのまま彼女は、バリーの身体と共に、ゆっくりとベッドに倒れこんでいった。
心地よい疲労感から解放され、ヘザーが瞼を開く。隣に寝ていたはずのバリーの姿が消え、広いベッドに、ヘザーは独り残されていた。彼女はその美しい瞳から、大きな涙を何粒も流し始める。 「どうして・・・」 涙がとめどなく、彼女の頬をつたう。 「貴方が帰る場所は・・・」 止めようとしても、涙は止まらなかった。 「どうして・・・アンジェリアなの・・・?」
|
|