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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第63回   63
バリーは何度もアルに礼を言うと、3人は図書館を後にした。バリーとジョージは、大いに喜んだ。学習障害のせいで、両親に邪魔者扱いされてきたアンだったが、彼女は誰よりも素晴らしい才能に満ち溢れていたのだ。
「誇りに思うよ、アン!」
ジョージがアンを抱き上げる。アンは赤面しながらも、満面の笑みを浮かべていた。それを見ていたバリーは、自分の中で、ある決断を下そうとしていた。
「バリー、どうしたの?」
アンが立ち止まっていたバリーに気付く。
「何でもない」
バリーが応える。
「ちょっと、用を思い出した」
そう言うと、バリーは二人と別れた。

大学へ戻ると、バリーは大学事務局へ赴き、大学院・ロースクールへの共通試験LSATの受験をキャンセルした。
事務局を出ると、背後からバリーを呼び止める声が聞こえる。振り返ると、奇妙な格好をしたヘザーが、バリーに抱きついた。反戦運動の若者たちに流行り始めていた、ヒッピースタイルの服装だった。
「愛してるわ・・・」
紺碧の瞳を潤ませ、ヘザーが唇を求める。バリーはそれに応じ、ヘザーの頬を撫でた。
「ヘザー」
バリーは眠気を誘うような、ヘザーの瞳を見る。
「クスリは、もう止めろ」
バリーの顔を見上げると、ヘザーは微笑を浮かべた。
「大丈夫よ・・・LSDに、常習性は無いもの」
バリーは表情を変えず、ヘザーを見た。
「前よりも、貴方が愛しいの。これ以上の幸せは、無いわ」
眠そうな瞳は、かなりの酩酊状態であることを示していた。バリーが手を放すと、今にもその身体は倒れそうなくらい、不安定な状態だった。
「マンションまで、送ってやるよ」
ヘザーの不可解な言動は、このクスリによるものだった。
ベトナム反戦運動で平和を叫び、彼らは禅や瞑想体験を得る為に、LSDとマリファナを使っていた。バリーは彼女がこのクスリに溺れていると、以前から気付いていた。
ヘザーの車で、彼女のマンションに着く。助手席のヘザーは眠り込んでいた。バリーは彼女を抱き上げ、4階の部屋まで運ぶ。部屋の中に入ると、いつものバラの香りが消え、マリファナの甘い臭いが染み付いていた。
バリーは彼女をベッドの上に寝かせると、シーツを被せ、そっと放れようとした。
「行かないで・・・」
ヘザーがバリーの腕を掴む。
「お願い・・・」
バリーは冷ややかな表情を崩さないまま、ヘザーを見ていた。
「愛してるわ・・・」
そっとバリーの頬に手を当てると、口づけを交わす。そのまま彼女は、バリーの身体と共に、ゆっくりとベッドに倒れこんでいった。

心地よい疲労感から解放され、ヘザーが瞼を開く。隣に寝ていたはずのバリーの姿が消え、広いベッドに、ヘザーは独り残されていた。彼女はその美しい瞳から、大きな涙を何粒も流し始める。
「どうして・・・」
涙がとめどなく、彼女の頬をつたう。
「貴方が帰る場所は・・・」
止めようとしても、涙は止まらなかった。
「どうして・・・アンジェリアなの・・・?」


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