20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第62回   62
バリーとジョージは、二人が座るテーブルに腰かけ、アルの話を聞いた。彼はアンを更に高度な大学へ、入れるべきだと言った。
「この子は、もしかして天才かもしれん」
バリーとジョージは、アンの顔を見る。アンを含め、彼らは驚いていた。
「それは・・・本当ですか?」
バリーが食い入るような眼差しで、アルを見た。
「これを、見たまえ」
アルは先ほどアンが数式を書いていた、ノートを見せる。そこには、膨大な量の数式が書かれていた。
「エルゴード定理を、彼女はその若さで証明したんだ!」
バリーとジョージがページをめくっていくが、既に理解出来ていなかった。
「更に高度な教育を受ければ、もしかして彼女は、フェルマーの最終定理の証明に行き着く、最初の数学者になるかもしれん!」
フェルマーの定理とは、17世紀のアマチュア数学者が残した、未だその定理を証明したものはいない、悪魔の難問と呼ばれた定理である。
バリーはアンの顔を見た。
「すごい・・・」
バリーが呟いた。
「今からはもう遅いが、来年の入学に合わせて、大学へ行く準備をしないかね?」
アルが続ける。
「僕の教え子が、カリフォルニア大学のバークレー校で教授をしている。君さえ良ければ、推薦状を書くよ」
カリフォルニア大学バークレー校は数学、科学、物理学の分野において、常にベスト3に入る名門である。ジョージは、それを聞いて目を潤ませた。
「信じられない・・・」
同じ言葉を、バリーとアンが同時に呟いた。
「アル、大学へ行ったら、私は誰かの役に立てる?」
アンが言った。
「ああ。“誰か”どころか、君は“人類”にとって必要な女性になる!」
アンは俯いた。目から数滴の涙が零れ落ちる。バリーは彼女の頭を撫でながら、自らの涙が落ちるのを、じっと堪えていた。
「泣いては駄目だ、これは喜ぶべきことなんだよ」
そう言うアルの目にも、涙が浮かび上がる。
「君のような天才に会ったのは、性格は全く違うが、ヨハネス以来さ!」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 4