バリーとジョージは、二人が座るテーブルに腰かけ、アルの話を聞いた。彼はアンを更に高度な大学へ、入れるべきだと言った。 「この子は、もしかして天才かもしれん」 バリーとジョージは、アンの顔を見る。アンを含め、彼らは驚いていた。 「それは・・・本当ですか?」 バリーが食い入るような眼差しで、アルを見た。 「これを、見たまえ」 アルは先ほどアンが数式を書いていた、ノートを見せる。そこには、膨大な量の数式が書かれていた。 「エルゴード定理を、彼女はその若さで証明したんだ!」 バリーとジョージがページをめくっていくが、既に理解出来ていなかった。 「更に高度な教育を受ければ、もしかして彼女は、フェルマーの最終定理の証明に行き着く、最初の数学者になるかもしれん!」 フェルマーの定理とは、17世紀のアマチュア数学者が残した、未だその定理を証明したものはいない、悪魔の難問と呼ばれた定理である。 バリーはアンの顔を見た。 「すごい・・・」 バリーが呟いた。 「今からはもう遅いが、来年の入学に合わせて、大学へ行く準備をしないかね?」 アルが続ける。 「僕の教え子が、カリフォルニア大学のバークレー校で教授をしている。君さえ良ければ、推薦状を書くよ」 カリフォルニア大学バークレー校は数学、科学、物理学の分野において、常にベスト3に入る名門である。ジョージは、それを聞いて目を潤ませた。 「信じられない・・・」 同じ言葉を、バリーとアンが同時に呟いた。 「アル、大学へ行ったら、私は誰かの役に立てる?」 アンが言った。 「ああ。“誰か”どころか、君は“人類”にとって必要な女性になる!」 アンは俯いた。目から数滴の涙が零れ落ちる。バリーは彼女の頭を撫でながら、自らの涙が落ちるのを、じっと堪えていた。 「泣いては駄目だ、これは喜ぶべきことなんだよ」 そう言うアルの目にも、涙が浮かび上がる。 「君のような天才に会ったのは、性格は全く違うが、ヨハネス以来さ!」
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