街に出ると、街灯も消え、車のヘッドライトの灯りだけが街を照らし出している。今の状況を知る為に、歩道には多くの人々が家やビルの中から出てきていた。その人々の中を掻い潜りながら、アンは足早にアパートに向かった。 アパートに着くと、建物から灯りが一切灯っていなかった。部屋に戻り、バリーの部屋を覗くと、彼は何事も無かったように、ぐっすりと眠り込んでいる。その寝顔を見て、アンは安堵した。 彼女はランタンをテーブルの上に置くと、ロベルタに貰ったスープを温め、バリーを起こした。彼は部屋の中が真っ暗ということと、ベッドに倒れこんで既に1時間を回っていたことに驚いていた。アンは「ウーノ・セルボ」に行き、ロベルタにバリーを休ませたいと告げると、温かいスープをもらい、街全体が大停電になって、ランタンまで貸してくれたと話した。 「大変だったな」 バリーは力無く微笑んだ。 「彼には、明日礼を言っておくよ」 スープを飲み干すと、解熱剤を飲み、バリーは再びベッドに入った。アンは氷枕を取替え、タオルで彼の額を冷やした。 「時々、取替えにきてあげるわ」 アンは笑みを浮かべる。 「もう、大丈夫だよ」 そう言うと、薬が効いたのか、彼はすぐに眠りに落ちた。 少し時間が経ち、ヒーターが効かない分、寒さが厳しくなってきた。アンは自分のベッドの毛布を、バリーにそっと掛ける。 「アン・・・」 バリーが目を閉じながら、呟いた。 「ずっと、一緒に・・・いような・・・」 これが寝言だったのかどうかは分からないが、アンは静かに返事をした。 それから本を一冊読み終えた頃、アパートのドアに、誰かがノックしていた。アンはランタンを持ってドア越しに問いかけると、ヘザーとジョージが返事をした。 「どうしたの?」 ドアを開け、ランタンを翳した。 「大学も停電なんだが、まさかここまでとは!」 ジョージが言う。 「もう、ジョージったら、あなたがこの停電で怖がってるから、車出してくれって頼むから来たのよ!」 ヘザーは、呆れ顔で言う。 「何言ってるんだ、君がバリーが心配だから付いてきてくれって言ったんじゃないか!」 ジョージが、顔を赤らめて言った。アンは微笑を浮かべ、二人を中に通した。 「バリーは、大丈夫か?」 「薬を飲んで寝てるわ」 アンはそう言うと、ヘザーに耳打ちをする。 「熱のせいか、いつもの嫌味を一切言わないわ。やけに素直で、大人しくなってるわよ」 「それは、最高だわ!」 ヘザーはバリーの部屋に向かった。 これは、北アメリカとカナダに渡って起きた大停電で、2500万人に影響を与えた。後に北アメリカ大停電と言われる日となったが、アンジェリアの短い生涯の中で、新たな出会いと人の優しさを知った、一番幸せを感じた日となった。
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