この日の朝は、酷く冷え込んだ。寒さで目を覚ますと、机の上にあった時計を見た。もう朝の7時を過ぎている。アンはパジャマを着替えてカーディガンを羽織ると、キッチンへ入り、ヒーターを点けた。キッチンが暖かくなるまでは、少し時間を要するが、やはり朝は気持ちの良いものだった。彼女は窓を開け、そとの空気を吸う。この冷気が、頭を冴えさせた。窓を閉めると、すぐに朝食とお弁当の用意に取り掛かった。 通信制の高校に入ったアンは、毎日バイネッケ図書館に通いながら、高校のレポートを書いている。そして、一つの変化に気付いた。開いた本のページは一瞬で記憶することが出来るようになり、どんどん知識を頭に入れるのが、楽しくて仕方がないのだった。 朝食が出来て、バリーを起こそうと部屋のドアをノックするが、返事が無い。 「もう、起きないと」 ドア越しに声をかけるが、返事は無かった。 「入るわよ」 そう言ってバリーの部屋に入る。彼はまだベッドの中にいた。 「もう支度しないと、遅刻するわよ」 バリーの肩を揺すると、ようやく目を開いた。バリーはいつもより、呆然としている。 「どうしたの?」 「大丈夫だ、もう起きるよ・・・」 バリーは力無く応えた。アンはバリーの額に手を当てた。 「少し、熱があるわ」 彼女は大学の講義を休んだらどうかとバリーに言うが、彼はそれを聞き入れようとしなかった。朝食を軽く食べた後、バリーはふらつきながら大学へ向かった。アンは心配したが、大学にはヘザーもジョージもいる。何かあれば、あの二人が付いていることが、心強かった。 お弁当をバッグに入れると、アンは図書館に向かった。
バイネッケ・レアブック・アンド・マヌス(希少書籍・原稿)図書館には、世界初の活版印刷によって刷られた、グーテンベルク聖書の初版本が保存されていることでも有名だった。アンはこの図書館で、一日に数十冊もの本を読んでいた。開いたページを一瞬でカメラを写すように記憶し、理解する。ジャンルは問わず、彼女は片っ端から、本を読みふけった。 昼になり、持ってきたお弁当のサンドイッチを手に庭のテラスに出ようとした時、数冊の本と、大量の鉛筆の束を運んでいた図書館司書の女性がアンの目の前で転んだ。 「大丈夫ですか?」 アンは女性に手を差し伸べる。司書は礼を言って立ち上がった。 散らばった本と、大量にばら撒かれた鉛筆。それを見たアンは、彼女に驚くべきことを言った。 「鉛筆は全部で184本ですが、合ってますか?」 その司書は驚愕した。一瞬で、その本数を言い当てたのだ。鉛筆を全て拾うのを手伝うと、司書はまた急ぎ足で荷物を運んでいった。 アンはその姿を見送ると、誰かが彼女を呼び止めた。 「お嬢さん」 振り返ると、そこには杖を持った白髪の老紳士が立っている。老紳士は柔和な笑みを浮かべていた。 「さっきの鉛筆・・・一目で本数が分かったのかい?」
|
|