その言葉を聞いた瞬間、ステニスは我を忘れ、バリーに拳を放った。だが、次の瞬間バリーの姿が目の前から消え、気付くとステニスの身体は空中を飛んでいる。その一瞬に起きた光景に、誰もが何が起きたのか理解出来ずにいた。 「どうした?あんたの腕も、そんな程度か」 ステニスを嘲笑うバリーの言葉に、スカル&ボーンズのメンバーの一人が、バリーに殴りかかろうとする。ジョージは咄嗟に、それに応戦しようとしたが、次の瞬間、気付くと二人の拳は止まっていた。 「お前は手を出すな。これは、俺の喧嘩だ」 バリーが二人の拳を止めていた。ジョージは、簡単にそれに応じる。 「何で助けないのよ!」 ヘザーがかなきり声を上げた。 「まぁ見てな。バリーは多分あれぐらいの人数なら、倒すのに1分もかからない」 ジョージが不適な笑みを浮かべる。ヘザーは唖然とした。 「お前は絶対に手を出すなよ!俺も、手を出さない」 バリーはそう言うと、両手を後ろに組んだ。 「ふざけやがって!」 ステニスが再度拳を放つが、バリーが手を出していないのにも関わらず、彼の身体は宙を舞った。それを見たほかのスカル&ボーンズのメンバーもバリーに向かっていく。しかしことごとく彼らの身体は宙を舞っていった。 「どうなってるの!?」 ヘザーはバリーの技を見抜けない。 「言ったとおりだろ?」 ジョージは自慢げに話した。騒ぎは大きくなり、食堂にいた他の生徒たちも喧嘩を始める。その余波が、ジョージの顔に当たった。彼も喧嘩という病気に感染してしまう。ヘザーは二人を制止しようと大声を上げるが、二人の表情を見て彼女は愕然とする。二人は水を得た魚のように、喧嘩を愉しんでいた。
気が付くと、そこは薄暗い部屋だった。湿気が酷く、その上カビ臭い。周りには安物の酒の臭いを漂わせた男や、人相の悪い男たちがこちらを睨んでいる。 「俺たち、何でこんな所にいるんだ?」 ジョージが粗末なベンチに座りながら、小さく呟いた。 「先に手を出したのは、奴らだ」 ジョージの呟きが続いた。目の前には檻がある。そこは警察の留置場だった。 「奴らが、“スカル&ボーンズ”だからさ」 隣に座っているバリーが笑えない冗談を言う。 「特権階級ってやつか・・・」 バリーの冗談が徐々に効き始める。ジョージの肩が笑いで小刻みに揺れ始めた。バリーもそれに釣られて笑う。 「・・・お前は、やっぱり凄いな」 ジョージがまた呟いた。 「“地球統一”?・・・俺には、あんな考えは出来ない」 「あれは、俺の考えじゃない」 バリーのその言葉に、ジョージは彼の顔を見た。 「スピラーン神父がクワンテイルでやっていた事を、そのまま世界に当てはめただけだ」 シネイド・スピラーンはミシシッピ・クワンテイルで、虐げられていた黒人に字を教え、神の賛美を歌う前に彼らに「経済」と「法律」を叩き込んでいた。そして彼らの田畑を共に手伝い、彼ら自身で“共同体”を築き上げさせ、白人と対等の力を持たそうとしていた。 「恐らく、未来永劫“偏見や差別”は無くならない。人は心のバランスを保つ為に、人よりも優位に立つことを望む。それが時には憎しみに変わることもあるんだ。それが“戦争”の引き金になることもある」 そして貧困は人間の心を蝕む。貧困から抜ける為に、戦争というビジネスをする。戦争によって莫大な利益を生むことは出来るが、戦争は人間を疲弊させるだけ。なら、違う方法で利益を生む方法を考えればいい。 「スピラーン神父も、ノルマンディ上陸作戦に参加し、そこで親友だったヘイリー・ステニスが戦死したと言っていた。あの人も、そんな事で死ぬより経済を発展させたほうがいいと思ったに違いない」 バリーは静かに話した。 「息子の俺よりも、お前のほうが父さんを理解してたんだ」 ジョージが寂しげに言う。 「いや、俺は他人だったから理解できたんだ。あまりに近いと、見えないこともある」
|
|