そう言うと、ステニスは“正義”を論じ始めた。家族を守る為の、統治者になる為の“正義”とは、国土を侵そうとする侵略者たちを一掃し、彼らの支配者になること。 「侵略者たちを殺さねば、彼らは我々の家族を殺す。だから我々は家族を守る為に侵略者を殺し、再び侵略が起こらないように彼らをも支配せねばならない」 それを聞くと、バリーはステニスを嘲笑った。 「何が可笑しいんだ?」 バリーの顔に冷徹な表情が浮かび上がる。その透き通った水色の瞳に、殺気とも言える気迫が満ちた。 「その争いは、一体誰が得をするんだ?侵略者か?それとも統治者か?」 隣に座っていたヘザーは、一瞬にして殺気を漂わせるバリーの腕から、からませていた自分の手を離した。 「戦争は莫大な利益を生む。しかも一部の人間にだけだ。だが、殆どの人間はその争いによって傷付く。なら、そんな戦争を止めさせる世界を創ればいい」 「詭弁だ!そんな事が、出来るはずがない!」 ステニスがテーブルを叩いた。 「詭弁なものか、簡単だよ。世界を統一すればいいのさ」 あまりに突飛なバリーの言葉に、その場に居た誰もが凍りついた。その三年前には、もう少しで核戦争が起きたであろう“キューバ危機”があり、前年には北ベトナム軍がアメリカの哨戒艇に二発の魚雷が発射された“トンキン湾事件”があったばかりだった。世界各地で、戦争の火種が燻り始めている中、バリーの言葉は、あまりに突飛過ぎた。 「世界統一?そんな夢物語を言うようでは、君は、まだまだ甘いな」 ステニスの、その言葉にバリーは更に言葉を被せた。 「夢物語なものか。まず各国バラバラの通貨を統一すればいいんだ。それで市場を開放する。それによってヘッジファンドによる“通貨攻撃”も抑えることが出来る。まぁ監視する為の国際的な諮問機関は必要だが、そうすれば、わざわざ危険を犯してまで戦争しなくても各国の経済効果は一気に飛躍する。いわゆる“経済共同体”を創ればいいんだよ」 「し・・・しかし戦争によって、技術は格段に飛躍するんだ・・・!」 「市場さえ開放すれば、売るために躍起になり、競争によって技術革新が生まれる。わざわざ危険で憎しみを生む戦争などしなくても、頭一つで莫大な利益を生むことは出来るんだ」 バリーは自分のこめかみに指をさした。 「戦争をやる為の口実だが、トンキン湾事件なんて酷いもんだ。あれは三流詐欺師でも、あんな手は使わん」 北ベトナム軍がアメリカの哨戒艇に二発の魚雷を発射し、それによってベトナムのアメリカ軍本格介入の機運が高まっている。いわばトンキン湾事件は戦争を起こす為の、きっかけをアメリカが作ったと、バリーは言っているのだ。しかしステニスはその言葉を理解できていなかった。 「戦争は、頭の悪い人間がするもんだ。あんた達の言う“正義”なんて、所詮は戦争をする為の“言い訳”に過ぎない」 ステニスはその言葉に呆然となる。追い詰められた彼は、最後の一言をバリーにぶつけた。 「お前は・・・“アカ”だ・・・」 アメリカとソ連の冷戦は、“民主主義VS共産主義”という図式を生み出していた。共同体=共産主義という安易な考え方に、バリーは呆れ果てる。 「あんた、ステニスと言ったな・・・。もしかして、あんたの父親の名はヘイリー・ステニスか?」 その名前にジョージが反応する。 「な、何故その名前を・・・」 ステニスがたじろいだ。 「あんたの親父さんは、いい男だったのに・・・」 また冷徹な色が、バリーの瞳に浮かび上がる。 「残念だな・・・“スカル&ボーンズ”が聞いて呆れる・・・」
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