「俺が?」 ステニスは、ゆっくりと頷いた。 「俺は、あんた達アングロサクソンと違ってユダヤ人だ」 「半分だけだろ?」 バリーは怪訝な表情を浮かべる。 「君の母親は、かのジャン・ファビュエール・フォン=デボアの血を引いている」 そう言うと、ステニスはジャン・デボアという人物の話を始めた。 デボア家はハプスブルグ家に仕えた貴族で、オーストリアとハンガリー帝国の軍事・経済を掌握していた豪族だった。その7代目当主となったジャン・デボアは、オーストリア・ハンガリー・イタリア・フランスを跨ぐ「ハノーブ・トラスト・バンク」の創始者であり、NATO設立の立役者でもあった。 「そんな男が、俺の爺さんだったのか」 バリーが物珍しそうに呟く。 「ただし、君は正統な血統ではない」 ステニスは話を続けた。バリーの祖母に当たる女性は、フランス人の女学生だったという。 「しかしデボア家は、実力者のみが当主の座に座ることが出来る。君は、当主の候補として名前が挙がっている筈だ」 ステニスの話を聞いたヘザーは、バリーの腕に抱きつき、喜んだ。 「君は、自分のルーツも知らなかったのかい?」 ステニスが、ほくそえんだ。 「生憎、両親とは絶縁状態なんでね」 バリーは食べかけていたサンドイッチを口に押し込めた。 「君がデボア家を継いだ場合、君は強大な権力者になる可能性がある。僕たちの仲間になれば、更にその力は強大なものになるだろう」 バリーはホットチョコレートを飲み干した。 「興味無いね」 バリーのその言葉に、笑みが消えるステニス。 「何故だ?」 「そんな力なんか、俺には必要無い」 ステニスは不適な笑みを浮かべる。 「我々の協力が無くても、権力を手にすることが出来るということか?」 「いいや、俺の家族が幸せであれば、何もいらない」 バリーのその言葉を聞いた瞬間、ステニスは大声で笑った。 「それが、君の“正義”なのか?おもしろい男だ」 「家族を守るのは、人間が生きる為の、幸福の原理だ。それが、何故可笑しい?」 ステニスは声を上げて笑っていたが、バリーの言葉に落ち着きを取り戻した。 「君には“神”はいるのか?」 ステニスがバリーに問いかけた。 「俺は、無神論者だ」 「なら話は早い。家族に幸せをもたらすのは、優れた統治者のみが出来る。その優れた統治者になる為の“正義”を教えてやろう」
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