ヘザーはよく“スカル&ボーンズ”の名前を口にするようになった。イェール大学に存在する、秘密結社である。だが秘密結社であるにも関わらず、メンバーの名簿などが全て公開されていた組織だった。政界や経済界での有力者や歴代のCIA長官が、このスカル&ボーンズのメンバーだったこともあり、出世欲の強いヘザーは、しきりにスカル&ボーンズに入社したいと言うようになっていった。 「あなたは、興味無いの?」 その日、学生食堂でバリーとジョージ、ヘザーの三人がランチをとるため、テーブルを囲んでいた。 「何が?」 本を開きながらサンドイッチを口に頬張っていたバリーが、頭を上げた。 「スカル・・・何?」 ジョージがヘザーに言った。 「二人とも、興味無いの?」 ヘザーはもう一度スカル&ボーンズの説明を二人にするが、彼らは興味が無いと、彼女の話を一蹴した。 「入社資格が成績や人柄、家系が関わってくるの。あなた達だったら、絶対に政界か経済界の中枢に入れるはずよ!」 それを聞いたジョージは両手を挙げて、降参の姿勢を見せた。 「それだったら、俺は資格が無いよ」 ヘザーはバリーにも問いかけるが、彼は再び興味が無いと応えただけだった。彼女は溜め息をつき、煙草に手を伸ばす。火を点けようとしたとき、背後で人の気配がした。振り返ると、スーツを着た数人のアイビーカットの男たちが立っている。ヘザーはそれがすぐに“スカル&ボーンズ”のメンバーだと分かった。 先頭に立っていた目の細い金髪の男が、本を読んでいるバリーの前に立った。 「君が、バリー・タウバーか?」 バリーは頭を上げる。 「あんたは?」 「僕はハワード・ステニス」 「ステニス?」 バリーはその名前に聞き覚えがあった。その記憶を手繰り寄せる。 「ここでは何だから、僕たちに着いてきてくれないか?」 ステニスは、静かな口調で話した。 「勉強にアルバイトがあるんでね。ヒマが無いんだ。俺に用があるんなら、ここで言えよ」 バリーのその言葉に、ステニスの後ろに立っていた男が怒りをあらわにするが、ステニスがそれを制止する。 「わかった」 そういうと、ステニスはバリーの向かいに座った。 「君は、僕が誰か知っているかい?」 「誰?」 バリーがそう言うと、ヘザーが彼に耳打ちをする。ハワード・ステニスは、スカル&ボーンズの幹部だと。 「その幹部が俺に何の用?」 その細い目を光らせながら、ステニスは静かに話し始めた。 「君をラッシュ(勧誘)しに来たんだ。君は我らがスカル&ボーンズに入る資格を持っている」
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