6ブロック北のグッドリッチストリートにある、パリのプレタポルテである「ドロテ・ビス」というブティックの前で車が停まった。 「ど・・・どういう事なの?」 車を出たアンは、まだ困惑している。ヘザーは、彼女の手を引いて店の中に入っていった。 「ジョージ・スピラーンに、明日会うんでしょ?」 「明日!?」 ヘザーは微笑んだ。 「明日あなたとジョージが会う為の、あなたのドレスを選んでやって欲しいってバリーに頼まれたのよ」 ブティックに入ると、店のスタッフは皆ヘザーの顔を知っているようだった。ヘザーは、アンに似合うドレスを持ってきて欲しいというと、何人かのスタッフが、ドレスを手にしてきた。アンはそれを一着ずつ試着していく。ヘザーは腕を組みながら、試着したドレスを吟味していった。 「これがいいわ!」 ヘザーが声を上げた。シンプルなドレスで、色も白だがスカートの裾に淡いブルーが入っている。 「あなたは白が似合うわ!」 「でも、これ・・・凄く高いわ・・・」 アンは、まだ戸惑っている。 「大丈夫よ!お金はバリーにもらってるわ。私に任せて!」 更に、ヘザーはそのドレスに合ったハイヒールとバッグを選んだ。 荷物を手にブティックから出ると、二人はその足でヘア・サロンに向かった。二軒隣に、ヘアサロンがある。そこへ入ると、ヘザーはアンに似合うパーマをとスタッフに話した。二人の美容師が、アンの髪にカラーを巻いていく。彼女は空いた口が塞がらなかった。 パーマ液が定着するまで、少し時間があった。隣でヘザーが雑誌を読んでいる。アンは彼女に声を掛けてみた。 「ヘザー・・・」 ヘザーは雑誌から顔を上げる。 「あなたは・・・バリーの恋人なの?」 アンの問いかけに、ヘザーは微笑んだ。 「そうよ!」 一瞬の間が空いたが、すぐにヘザーの顔に落胆の色が浮かんだ。 「と・・・言いたいけど、残念ながら友達」 「バリーのこと、好きなの?」 ヘザーが小さく頷く。 「どういうところが好きなの?」 アンが続けざまに聞いた。ヘザーは少し考えて、ゆっくりと応えた。 「自分の考えを、ちゃんと言うからかな・・・」 ヘザーの父親が上院議員ということもあり、自分にまとわり着く人間は、例えそれが間違っていても、ヘザーの発言は全て“正しい”とされてきた。 「でもね、バリーは違ったわ」 ヘザーは講義が始まると、常にバリーの隣に座り、彼と議論を交わした。 「彼は、違う事はNOというし、自分が違ったときは、私の意見も取り入れようとするの。議論するときは攻撃的だけど、柔軟性もある。そんな人は、私の周りにはいなかったわ」 ヘザーが微笑む。恋をする女性の顔は、こういう顔なのかとアンは思っていた。 「それに、彼ってハンサムでしょ?」 アンは頬を赤らめた。 「そうね・・・」 二人は互いに微笑あった。 「そうだ、あなたもジョージ・スピラーンが好きだったんでしょ?」 ヘザーがアンに問いかける。 「私はまだジョージに会ったことは無いけど、彼フットボールチームでは、すぐにでもスタメンになるんじゃないかっていう位の実力者だし、すごいハンサムらしいわよ!」 ヘザーが椅子から立ち上がり、アンの目を見据えた。 「ねえ、私たち友達になりましょう!」 「友達・・・?」 ヘザーが頷く。 「あなたはジョージを、私はバリーを捕まえるの!」 アンは彼女の輝いている笑顔に圧倒されていた。 「お互い、友達として・・・ううん、親友として、協力しあいましょう!」 アンはヘザーの言う“親友”という言葉に、胸をときめかせていた。
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