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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第35回   35
 タウバー邸に戻り、夕食時を過ぎても、ダニエル・フロストは現れなかった。チェスターによれば、父親のジョナサンと母親のミミが州知事の定例パーティに呼ばれているらしく、恐らくそれに同席しているものと思われた。
 バリーとアンは二人きりで、食事をとった。その間、アンジェリアは下を向いたままだった。バリーは帰って、アンジェリアに聞きたいことが色々あった筈だった。自分が帰れなかったこの7年間、彼女は何を思ったのか、何を感じていたのか。聞いて欲しいことも色々あった。自分が何を思ったのか、何を感じていたのか。
 だが彼女の暗く沈んだ顔を見ると、何も言えなかった。明日の早朝には、ここを発たねばならない。もう、時間は無かった。
 二人が就寝する直前、自分の部屋に入ろうとするアンジェリアを、バリーは引き止めた。
「ここに残るつもりか?」
アンは何も言おうとしない。
「本当にダニエルと結婚して、お前が幸せになれると思うか?」
バリーはアンの腕を掴む。
「何か言ってくれ」
アンは、口元に笑みを浮かべた。しかしエメラルド色のその瞳には、明らかに悲しみを帯びている。
「パパがね、今度、州知事選に出るんだって」
アンの腕を掴んでいるバリーの手を取り、彼女はその手を両手で包み込んだ。
「私がダニーと結婚すれば、パパのイメージも良くなって、当選しやすくなるんだって」
「そんな事はない」
アンは首を振った。
「こんな私でも、役に立てるのよ」
「そんな事はない!」
バリーは声を荒立てた。
「お前自身はどうなんだ?あんな奴のことよりも、自分の事を考えろ」
アンはまた、首を振った。
「私が嬉しいのよ。誰かの役に立てることが・・・」
バリーの手を握ったアンジェリアの手に、弱々しい力がこもった。
「バリー、ありがとう。貴方も、自分の幸せを考えて」
そう言うと、アンは自分の部屋へ消えていった。


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