タウバー邸に戻り、夕食時を過ぎても、ダニエル・フロストは現れなかった。チェスターによれば、父親のジョナサンと母親のミミが州知事の定例パーティに呼ばれているらしく、恐らくそれに同席しているものと思われた。 バリーとアンは二人きりで、食事をとった。その間、アンジェリアは下を向いたままだった。バリーは帰って、アンジェリアに聞きたいことが色々あった筈だった。自分が帰れなかったこの7年間、彼女は何を思ったのか、何を感じていたのか。聞いて欲しいことも色々あった。自分が何を思ったのか、何を感じていたのか。 だが彼女の暗く沈んだ顔を見ると、何も言えなかった。明日の早朝には、ここを発たねばならない。もう、時間は無かった。 二人が就寝する直前、自分の部屋に入ろうとするアンジェリアを、バリーは引き止めた。 「ここに残るつもりか?」 アンは何も言おうとしない。 「本当にダニエルと結婚して、お前が幸せになれると思うか?」 バリーはアンの腕を掴む。 「何か言ってくれ」 アンは、口元に笑みを浮かべた。しかしエメラルド色のその瞳には、明らかに悲しみを帯びている。 「パパがね、今度、州知事選に出るんだって」 アンの腕を掴んでいるバリーの手を取り、彼女はその手を両手で包み込んだ。 「私がダニーと結婚すれば、パパのイメージも良くなって、当選しやすくなるんだって」 「そんな事はない」 アンは首を振った。 「こんな私でも、役に立てるのよ」 「そんな事はない!」 バリーは声を荒立てた。 「お前自身はどうなんだ?あんな奴のことよりも、自分の事を考えろ」 アンはまた、首を振った。 「私が嬉しいのよ。誰かの役に立てることが・・・」 バリーの手を握ったアンジェリアの手に、弱々しい力がこもった。 「バリー、ありがとう。貴方も、自分の幸せを考えて」 そう言うと、アンは自分の部屋へ消えていった。
|
|