車のラジオからは、チェビー・チェッカーのレッツ・ツィスト・アゲインが流れていた。窓を開けると心地よい風が入ってくる。 「アン、ボーリングはやったことあるのか?」 アンジェリアは首を振る。 「俺も、無いんだ」 バリーが微笑んだ。アンは、まだ戸惑っている表情を見せる。
ボーリング場で、バリーはアンジェリアに投げ方を教え、ゲームのルールを教える。最初は何度やっても、ガターばかりだった。大笑いするバリーだが、自分もなかなかストライクが取れない。負けず嫌いなアンは、仕返しにバリーを笑う。二人は何度も何度も、投げた。ピンが倒れる度に、二人は一喜一憂する。次第に、アンジェリアに昔のような無邪気な笑顔が戻り始めた。
「なぁ、腹減ってないか?」 車のラジオからは、エルヴィス・プレスリーのグッド・ラック・チャームが流れている。 アンは首を縦に振った。 「じゃあ、ハンバーガー食いに行こう」 バリーはドライブインシアターに入る。巨大な駐車場の真正面に、巨大なスクリーンが設置されている。まだ夕方前で陽が高いせいか、停まっている車の数はまばらだった。ドライブスルーでハンバーガーとコークにポテトを二つずつ受け取ると、駐車場に入った。 「今の上映は・・・アラビアのロレンスなのか・・・」 アンがシアターで映画を見たことがないと言ったので、見て行きたいところだったが、夜からの上映だったので見ることは出来なかった。 二人はハンバーガーに齧り付いた。 「おいしい!こんなの初めて食べたわ!」とアンジェリアが感嘆の声を上げる。バリーはその一言で、彼女の置かれた現在の状況を察した。 アンジェリアは16歳になった。普通であれば、ハイスクールに通い、友達やボーイフレンド達と映画を見たり、ボーリングで遊んだり、ハンバーガーやお菓子を食べて青春を謳歌している筈だった。 しかしアンは、ボーリングや映画、ハンバーガーも知らないという。 「本当にダニエルと結婚するのか?」 バリーがおもむろに口を開いたその瞬間、下を向いたアンが小さく頷いた。 「ダニエルの事、愛しているのか?」 アンは下を向いたまま、押し黙る。 「愛してないなら、結婚なんてよせ」 アンは何も言わなかった。二人の間に、重苦しい空気が流れる。その空気を打ち破ったのは、主導権を握っていたバリーだった。 「・・・ジョージに会いたくないか?」 アンの顔を上げる。 「お前、ジョージの事が好きだったんだろ?」 「ジョージに会えるの?」 バリーは一瞬、言葉を詰まらせた。 「多分・・・いや、必ず会えるさ。その為に、イェール大を受けたんだ」 バリーの脳裏に、スピラーン神父の顔が甦る。昔の親友との約束で、互いの息子にフットボールをさせる為にイェール大に入れると、死ぬ直前に話してくれたことを思い出した。 「だから、一緒にここを出よう」 アンはバリーを見るが、すぐに下を向いていしまう。 「駄目よ・・・。一緒に行けない」 「何故だ?」 またアンが押し黙った。 「行けないの・・・ごめんなさい」 「はっきりと、理由を言えよ!」 アンの大きな瞳に、涙が浮かび上がる。バリーはこれ以上、何も言えないと悟った。 「今までは何も出来なかったが、お前が好きな奴と結婚するまでは、俺が守ってやる・・・だから・・・」 バリーはアンジェリアの頭を撫でた。 「もう少しだけ、時間はある。考えてくれ」
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