タウバー邸に着く頃には、夕食時をとっくに過ぎていた。バリーは門を潜り抜けると、自分の家を見上げる。嫌な思い出ばかりが詰まった家だった。 「今度こそ、抜け出してやる」 バリーは自分に言い聞かせるように、小さく呟く。扉に向かう途中、庭に白いバラが咲いていた。家からの明かりで、その美しさが浮かび上がる。以前にマーサが育てていたバラだった。これを育てているのは、花が好きだったアンジェリアしかいないはずだった。 バリーはダニエルと婚約したアンに裏切られた思いだったが、スピラーン神父の墓に供えられているバラを見て、それは自分の思い違いだったと悟った。変わったのは容姿だけで、彼女は昔のままだった。一瞬でも疑った自分を恥じた。ダニエルと婚約したのは、何か訳があるのだろう。 エントランスに入る為の扉を叩くと、中からチェスターと名乗る新しいバトラーが顔を出した。マーサとは正反対の、物静かな男だった。 チェスターは、父親のジョナサンの下にバリーを連れて行く。二階に上がり、ジョナサンの書斎の扉をチェスターがノックする。 「お連れしました」 扉が開くと、真正面に巨大なマホガニーのデスクが置かれていた。7年前に感じた大きさよりも、幾分か小さく感じる。 「遅かったな」 デスクで仕事に耽っていた父親のジョナサンが、椅子から立ち上がる。バリーは何も言わず、デスクの前に進んだ。 「せっかくダニーを迎えに寄こしたのに怒らせるなんて」 バリーはジョナサンの顔を睨み付ける。その顔には老眼鏡と、頭には白髪が混ざり始めていた。 「しかもウエストポイントを蹴って、イェールとは!お前はどこまで私を馬鹿にする気だ!?」 ジョナサンは手に、かつてバリーを殴りつけた鞭を手にする。 「わざわざフルスカラシップを取って、貧乏人の真似をするのか!?」 7年前は見上げていたはずの父親が、今では小さくなっている。自分が成長したせいなのか、父親が年老いたせいなのか。 「私の顔に泥を塗るようなマネを!」 ジョナサンが昔のように鞭を振り上げた瞬間、その腕を掴む。 「あんた、年老いたな」 バリーは笑みを浮かべた。ジョナサンは力を込めるが、その手はびくともしなかった。 「俺が戻ったのは、ここを出る準備と、アンに会うためだ」 バリーはその手に力を込める。ジョナサンは苦痛に顔を歪めた。 「ダニエルとアンの婚約も、どうせあんたの差し金だろう。止めさせろ」 そう言った瞬間、ジョナサンの顔にも笑みが浮かぶ。 「お前が出て行くのなら、それでもいい。しかし、アンジェリアの婚約には口を出すな」 「何?」 二人は睨み合った。バリーはジョナサンの腕を放す。 「アンは、あんな下衆野郎と結婚はさせない!」 「アンは,お前の言うことは聞かんよ」 バリーはジョナサンの書斎を出た。
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