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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第31回   31
 市街地から外れ、景色は次第に綿花畑が広がり始めた。クワンテイルという黒人街に入る。あの時と同じ光景だった。夕方に差し掛かり、あの時と同じように綿花畑が赤く染まり始めている。あの時と同じように、熱風が心地よい風に変わり始めていた。バリーの鼓動が高鳴る。あの時と同じ風景に、息苦しさを感じ始めた。肩にかけていた荷物が、妙に重く感じる。あまりの重さに荷物を地面に置くと、たまらず膝をついた。軽いめまいを起こしたのか、道端に生えている草花が揺れている。腰を下ろし、ネクタイを外した。吐き気はしないが、これ以上は進めない。そう思い、呼吸をする為に頭を上げる。
 すると、意外な光景が目の前に広がっていた。
「これは・・・・」
7年前、スピラーン神父と共に炎によって崩れ落ちた筈の教会が、そこに存在していたのだ。
 バリーはゆっくりと立ち上がり、吸い込まれるように教会に向かう。木造建ては以前と変わりなかったが、以前よりも真新しさを感じた。以前は生えていなかったはずなのに、青々とした芝生が敷地内一面に生えている。扉をゆっくりと開けてみた。誰もいない。真正面の祭壇には、見覚えのある十字架が聳え立っている。
「誰だ?」
バリーの背後で男の声がした。振り返ると50代くらいの男が、モップとバケツを手に立っている。
「ここはまだ開放していないんだぞ」
その男はバリーに近寄った。
「さぁ今から掃除するんだから、とっとと出て行け」
男は手で出て行くように促した。
「おじさん、この教会は7年前に焼け落ちたはずなのに・・・どうして建ってるんだい?」
バリーのその言葉に、掃除を始めていた男の手が止まる。
「それに・・・前よりも綺麗になってる・・・!」
嬉しそうなバリーを見て、つっけんどんな男の顔に優しい表情が浮かび上がる。
「そりゃそうだ。この教会は俺たちが、なけなしの金を出し合って建てたんだからな」
「おじさん達が・・・?」
「ああ。前の神父様が残した志は、俺たちが引き継がなきゃならないと思ってね」
男は話を続ける。スピラーン神父がKKKに殺されたことで、黒人排撃に立ち向かう為にも、この教会を建てることは大きな意味があるという。
バリーは感銘を受けた。スピラーン神父がやっていた事は、やはり正しかったのだ。男はさらに、スピラーン神父の墓もあると言った。
「案内してやるよ」
男は言った。スピラーン神父の墓は、教会の裏にある小高い丘に造られている。何も無い緑の丘に、一つの墓石があった。
「シネイド・スピラーン1957年8月、この地に眠る。彼は我々の師であり、友であり、父であった」と記されている。その墓に、2本の白いバラが飾られていた。
バリーはそのバラに見覚えがあった。誰かこの墓に自分以外に来ていないか聞くと、男は5年ほど前に、ロレーナとジョージが墓参りに訪れていたとバリーに話した。
「ジョージが来たんですか!?」
「なんだ、お前はあのボウズの友達なのか?」
男の問いに頷く。
「しかし、それからは来ていないよ」
二人は今、どこにいるのかも分からないという。
「じゃあ、このバラはおじさんが?」
「そんなバラ、俺じゃ高くて買えないよ」
白いバラは、金髪の美しい少女が毎日のようにこの墓に来て置いていくのだという。
「手入れも毎日のようにやっていくんだ」
男は言った。バリーはそれがアンジェリアだと分かった。バリーは男に礼を言うと、再び家路に着いた。


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