レイルウェイバスを乗り継ぎ、ニューヨークから三日間かけて、このアーチファクトに戻ってきた。移り変わる窓の外の景色を眺めながら、バリーはどうしてもこの7年間、故郷に戻ることが出来なかった事を思い起こした。夏・冬の休暇が出る度に、故郷を思い出した瞬間、スピラーンの死に顔が一瞬の光と共に彼の脳裏に甦る。同時に激しい嘔吐を何度も起こしていた。他のクラスメートたちが休暇で家路に着く中、バリーだけは学校に残って勉強を続けていたのだった。 だが今回は念願だったイェール大学に進学が決まり、やっと本当の意味でタウバー邸から抜け出すことが出来る。その前にどうしても、アンジェリアの顔を見ておきたかった。 バスの停留所には、アンが迎えに来ると父親から連絡があった。バリーは陸軍学校の制服のボタンをしめ、緩んでいたネクタイを正した。 ダイナーがあるレイルウェイバスの停留所に入ると、一斉に客が頭上の荷物を取り出し、車内が慌しくなっていった。 バスが停車し、ドアが開く。バリーは降車する為に並んでいる客の一番後ろについた。彼は窓の外を見る。夏期休暇が始まった直後のレイルウェイバスだったせいか、停留所に迎えの人間も多い。目でアンの姿を探したが、車内からは分からなかった。 やっとバスを降りると、バリーはごった返した辺りを見回す。その時、自分の名前を呼ぶ声に気付いた。 「バリー!」 声のする方を見ると、真っ白なつばの広い帽子を被った少女が手を振っている。 「アン!」 少女はバリーに駆け寄り、抱きついた。 「やっぱり、バリーだったわ!」 バリーはその姿を見て一瞬、息を呑んだ。白銀に近いほどの金色の髪に、透き通るような白い肌。エメラルドのような碧の瞳を輝かせ、その頬は少し赤みを帯びていた。 「どうしたの?」 「16歳になったんだろ?・・・綺麗になった」 アンジェリアは少し照れながら微笑んだ。 「あなたも、背がすごく高いわ」 二人は互いを見つめあった。 「元気そうだ」 「あなたも」 そのとき何者かが、バリーの背後から彼の肩を叩く。振り返ると、そこにはダニエル・フロストが立っていた。 一瞬にして、アンジェリアの顔が曇る。 「久しぶりだな、バリー」 7年前と違い、見るからに高そうなスーツに身を包んでいる。 バリーは言葉を失った。何故この男がこの場所にいるのか、理解できないでいた。 「お前が、何故ここに・・・?」 「君を迎えに来たんだよ」 ダニエルは、7年前と変わらない嫌味な笑みを浮かべる。 「お前が何故アンといるんだ?」 「なんだ、アンから聞いてなかったのか?俺たちは婚約したんだ」 その信じられない言葉にアンの顔を見ると、アンはこれ以上何も言いたくないかのように下を向いた。 「僕がタウバー検事の秘書として働いていることも知らないのか?」 バリーは呆然とした。 「アン、お前は事実を伝えることさえも、何も出来ないんだな!やはり字もろくに書けないのでは、無理もないか」 その言葉にバリーが激昂し、ダニエルを殴り飛ばした。それに気付いた辺りの客が悲鳴を上げる中、バリーはもう一度ダニエルの襟元を掴みあげる。 「止めて!」 アンがバリーの腕を掴み、それを止めようとした。 「何故止める!?」 「この人を傷つけないで!」 アンの目を見た。 「どうしてこんな奴と婚約なんか・・・?」 「いいのよ。何も出来ない私と、結婚してくれるっていうんだから」 バリーはその言葉がどうしても信じられなかった。ダニエルは立ち上がると、バリーに反撃するまでもなく、独りで帰ってこいと暴言を吐きながら、車に向かった。 「来い!アンジェリア!」 彼女は戸惑ったが、ダニエルの言葉に従うしかなかった。 「バリー・・・ごめんなさい・・・」 アンはダニエルの後を追った。
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