20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第29回   1964年8月ミシシッピ州アーチファクト
 レイルウェイバスを乗り継ぎ、ニューヨークから三日間かけて、このアーチファクトに戻ってきた。移り変わる窓の外の景色を眺めながら、バリーはどうしてもこの7年間、故郷に戻ることが出来なかった事を思い起こした。夏・冬の休暇が出る度に、故郷を思い出した瞬間、スピラーンの死に顔が一瞬の光と共に彼の脳裏に甦る。同時に激しい嘔吐を何度も起こしていた。他のクラスメートたちが休暇で家路に着く中、バリーだけは学校に残って勉強を続けていたのだった。
 だが今回は念願だったイェール大学に進学が決まり、やっと本当の意味でタウバー邸から抜け出すことが出来る。その前にどうしても、アンジェリアの顔を見ておきたかった。
バスの停留所には、アンが迎えに来ると父親から連絡があった。バリーは陸軍学校の制服のボタンをしめ、緩んでいたネクタイを正した。
ダイナーがあるレイルウェイバスの停留所に入ると、一斉に客が頭上の荷物を取り出し、車内が慌しくなっていった。
バスが停車し、ドアが開く。バリーは降車する為に並んでいる客の一番後ろについた。彼は窓の外を見る。夏期休暇が始まった直後のレイルウェイバスだったせいか、停留所に迎えの人間も多い。目でアンの姿を探したが、車内からは分からなかった。
 やっとバスを降りると、バリーはごった返した辺りを見回す。その時、自分の名前を呼ぶ声に気付いた。
「バリー!」
声のする方を見ると、真っ白なつばの広い帽子を被った少女が手を振っている。
「アン!」
少女はバリーに駆け寄り、抱きついた。
「やっぱり、バリーだったわ!」
バリーはその姿を見て一瞬、息を呑んだ。白銀に近いほどの金色の髪に、透き通るような白い肌。エメラルドのような碧の瞳を輝かせ、その頬は少し赤みを帯びていた。
「どうしたの?」
「16歳になったんだろ?・・・綺麗になった」
アンジェリアは少し照れながら微笑んだ。
「あなたも、背がすごく高いわ」
二人は互いを見つめあった。
「元気そうだ」
「あなたも」
そのとき何者かが、バリーの背後から彼の肩を叩く。振り返ると、そこにはダニエル・フロストが立っていた。
一瞬にして、アンジェリアの顔が曇る。
「久しぶりだな、バリー」
7年前と違い、見るからに高そうなスーツに身を包んでいる。
バリーは言葉を失った。何故この男がこの場所にいるのか、理解できないでいた。
「お前が、何故ここに・・・?」
「君を迎えに来たんだよ」
ダニエルは、7年前と変わらない嫌味な笑みを浮かべる。
「お前が何故アンといるんだ?」
「なんだ、アンから聞いてなかったのか?俺たちは婚約したんだ」
その信じられない言葉にアンの顔を見ると、アンはこれ以上何も言いたくないかのように下を向いた。
「僕がタウバー検事の秘書として働いていることも知らないのか?」
バリーは呆然とした。
「アン、お前は事実を伝えることさえも、何も出来ないんだな!やはり字もろくに書けないのでは、無理もないか」
その言葉にバリーが激昂し、ダニエルを殴り飛ばした。それに気付いた辺りの客が悲鳴を上げる中、バリーはもう一度ダニエルの襟元を掴みあげる。
「止めて!」
アンがバリーの腕を掴み、それを止めようとした。
「何故止める!?」
「この人を傷つけないで!」
アンの目を見た。
「どうしてこんな奴と婚約なんか・・・?」
「いいのよ。何も出来ない私と、結婚してくれるっていうんだから」
バリーはその言葉がどうしても信じられなかった。ダニエルは立ち上がると、バリーに反撃するまでもなく、独りで帰ってこいと暴言を吐きながら、車に向かった。
「来い!アンジェリア!」
彼女は戸惑ったが、ダニエルの言葉に従うしかなかった。
「バリー・・・ごめんなさい・・・」
アンはダニエルの後を追った。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1114