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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第28回   28
  父親の死を確信したものの、現実を受け入れることが出来ないジョージは、今にも倒れそうなバリーの襟元を掴み上げると、自分の体重をかけて殴り飛ばした。
「どうして、お前がいるんだ!?」
ロレーナが止めようとするが、制止を振り切って、もう一度バリーに飛び掛ろうとしたそのとき、
「駄目!」
アンジェリアがバリーの前に出た。
「お前の父親が、父さんを殺したんだ!」
「バリーは何も悪くない!」
バリーが力無く起き上がり、アンにそこをどけと言う。
「悪いのは、俺だ」
白い三角頭巾の男が自分にライフルの銃口を向けたとき、もう一人の男は自分を「タウバー検事の息子」と言っていた。自分がスピラーンに助けを求めたせいで、彼は父親ジョナサンの報復にあってしまった。全ては、自分のせいだ。
ジョージはその言葉にもう一度、バリーに飛び掛り、馬乗りになって彼を殴った。ロレーナは怒りに震えるジョージを背後から優しく抱き寄せた。
「ジョージ、もういいのよ」
ジョージはその優しい声に、大声で涙する。
「どうして、お前なんだ」
ジョージは地面に崩れ落ちた。
目に涙を浮かべながら、ロレーナは倒れているバリーの頬を優しく撫でる。
「ごめんなさい・・・悪いのは、僕です・・・」
ロレーナは首を振った。そして、優しい微笑を浮かべる。
「あの人は、最期まであなたを守ったのよ・・・」

その後バリーは気を失ったのか、次に意識を取り戻したのは自分のベッドの上だった。傍にはアンジェリアがいた。彼女が言うには、あれから3日間気を失っていたのだという。ロレーナはバリーとアンを連れて逃げようとしたが、それを拒んだのはバリーだった。
ロレーナとジョージの二人は、ひっそりとスピラーン神父の葬儀を行った後、この街を去ったらしい。どこへ行ったのか聞くと、行く先は分からないとの事だった。
バリーは、何も考えられなかった。父親のジョナサンに対する憎悪も、何も考えられなかった。
それから父親に言われるがままに、9月から全寮制である陸軍学校に入学が決まった数日後、この屋敷を出るときが訪れる。
まだ陽が出ていないその日の早朝、陸軍学校の制服に身を包んだバリーはアンジェリアの部屋のドアをノックした。
「アン、入るよ」
部屋に入ると、アンはベッドの上で座っている。バリーはその隣に座った。
「もう行くの?」
アンは目を赤く腫らしていた。恐らく、昨日一晩中泣いていたのだろう。
「絵を描いて、手紙を送ってくれ」
「手紙?」
「ああ。何でもいいんだ。花の絵でも、何でもいい。絵日記にして、俺にお前の毎日を教えてくれ」
バリーはアンの頭を撫でた。その手紙が自分とアンジェリアをつなぐ、唯一の方法だから。
「そうだ、これをお前にやる」
バリーはズボンのポケットから、銀のロザリオを取り出した。真ん中に翡翠の入った、スピラーン神父のロザリオだった。
「お守りだ」
アンジェリアの首に、そのロザリオをかけた。
「スピラーン神父が、お前をきっと守ってくれるよ」
アンジェリアは小さく頷くと、バリーに抱きついた。
「バリー・・・すぐ帰ってきてね」
「今度は冬休みだ・・・そんなのすぐだよ」
「うん、約束ね」

 部屋の窓の外から、アンジェリアが迎えに来たタクシーに乗り込むバリーを見送っていた。バリーはその顔を見上げる。アンは幼いながらも、美しい天使のような微笑を浮かべていた。
この微笑を、バリーは一生忘れることが出来なかった。
この日から7年間、バリーは一度もタウバー邸に戻ることは無かった・・・。


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