父親の死を確信したものの、現実を受け入れることが出来ないジョージは、今にも倒れそうなバリーの襟元を掴み上げると、自分の体重をかけて殴り飛ばした。 「どうして、お前がいるんだ!?」 ロレーナが止めようとするが、制止を振り切って、もう一度バリーに飛び掛ろうとしたそのとき、 「駄目!」 アンジェリアがバリーの前に出た。 「お前の父親が、父さんを殺したんだ!」 「バリーは何も悪くない!」 バリーが力無く起き上がり、アンにそこをどけと言う。 「悪いのは、俺だ」 白い三角頭巾の男が自分にライフルの銃口を向けたとき、もう一人の男は自分を「タウバー検事の息子」と言っていた。自分がスピラーンに助けを求めたせいで、彼は父親ジョナサンの報復にあってしまった。全ては、自分のせいだ。 ジョージはその言葉にもう一度、バリーに飛び掛り、馬乗りになって彼を殴った。ロレーナは怒りに震えるジョージを背後から優しく抱き寄せた。 「ジョージ、もういいのよ」 ジョージはその優しい声に、大声で涙する。 「どうして、お前なんだ」 ジョージは地面に崩れ落ちた。 目に涙を浮かべながら、ロレーナは倒れているバリーの頬を優しく撫でる。 「ごめんなさい・・・悪いのは、僕です・・・」 ロレーナは首を振った。そして、優しい微笑を浮かべる。 「あの人は、最期まであなたを守ったのよ・・・」
その後バリーは気を失ったのか、次に意識を取り戻したのは自分のベッドの上だった。傍にはアンジェリアがいた。彼女が言うには、あれから3日間気を失っていたのだという。ロレーナはバリーとアンを連れて逃げようとしたが、それを拒んだのはバリーだった。 ロレーナとジョージの二人は、ひっそりとスピラーン神父の葬儀を行った後、この街を去ったらしい。どこへ行ったのか聞くと、行く先は分からないとの事だった。 バリーは、何も考えられなかった。父親のジョナサンに対する憎悪も、何も考えられなかった。 それから父親に言われるがままに、9月から全寮制である陸軍学校に入学が決まった数日後、この屋敷を出るときが訪れる。 まだ陽が出ていないその日の早朝、陸軍学校の制服に身を包んだバリーはアンジェリアの部屋のドアをノックした。 「アン、入るよ」 部屋に入ると、アンはベッドの上で座っている。バリーはその隣に座った。 「もう行くの?」 アンは目を赤く腫らしていた。恐らく、昨日一晩中泣いていたのだろう。 「絵を描いて、手紙を送ってくれ」 「手紙?」 「ああ。何でもいいんだ。花の絵でも、何でもいい。絵日記にして、俺にお前の毎日を教えてくれ」 バリーはアンの頭を撫でた。その手紙が自分とアンジェリアをつなぐ、唯一の方法だから。 「そうだ、これをお前にやる」 バリーはズボンのポケットから、銀のロザリオを取り出した。真ん中に翡翠の入った、スピラーン神父のロザリオだった。 「お守りだ」 アンジェリアの首に、そのロザリオをかけた。 「スピラーン神父が、お前をきっと守ってくれるよ」 アンジェリアは小さく頷くと、バリーに抱きついた。 「バリー・・・すぐ帰ってきてね」 「今度は冬休みだ・・・そんなのすぐだよ」 「うん、約束ね」
部屋の窓の外から、アンジェリアが迎えに来たタクシーに乗り込むバリーを見送っていた。バリーはその顔を見上げる。アンは幼いながらも、美しい天使のような微笑を浮かべていた。 この微笑を、バリーは一生忘れることが出来なかった。 この日から7年間、バリーは一度もタウバー邸に戻ることは無かった・・・。
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