世界は全てが、まるでスローモーションを見るかのように、ゆっくりとした時間が進む。 バリーが振り返ると、スピラーンが胸から血しぶきを上げながら、魂の無い巨木のように倒れていった。 「神父!」 ライフルを構えた男がバリーの声に反応し、彼の額に銃口を突きつけた。 「止めろ、ガキはタウバー検事の息子だ!」 もう一人の男が、それを制止する。二人は教会を足早に出た。バリーはスピラーンの傍に駆け寄る。神父の胸から大量の血液が流れ出していた。流れ出る生温かい血を止めようと、バリーは小さな手で銃創を押さえるが、血液はとめどなく流れ出ていく。 「死んじゃ駄目だ!」 バリーが叫ぶが、スピラーンに反応は無かった。窓の外で燃え盛る炎が、やがて教会にも飛び火していく。このままでは二人とも助からない。バリーは本能的に感じたが、その場を離れようとしなかった。バリーは静かに涙を流す。涙は頬をつたい、スピラーンの頬に零れ落ちた。するとその涙に反応し、スピラーンの瞼が僅かに開く。 「逃げるんだ」 彼はバリーの腕を掴んだ。 「嫌です。あなたを置いて行けない」 祭壇の十字架が炎によって、崩れ落ちる。 「君は、その時が来るまで・・・生き抜け!」 教会の窓が灼熱に耐え切れず、割れ始めた。 「今は、その時じゃない・・・!」 バリーは泣きながら立ち上がった。 「さぁ、行け!・・・ジョージを頼む・・・」 よろめきながら、バリーは扉に向かって歩き始めた。 「それでいい・・・」 バリーが扉から出た瞬間、教会の屋根が崩れ落ちる。彼の背後から手が伸び、その手はバリーを抱き寄せた。腕の中から顔を見上げると、その手はロレーナ・スピラーンだった。 「大丈夫?」 バリーは状況を飲み込めない。ロレーナの背後で、ジョージが父であるスピラーンの名を呼んでいるが、燃え盛る炎の音でかき消されていた。 「神父が・・・」 バリーの言葉にロレーナとジョージが反応する。夫であるシネイド・スピラーンが、教会の中に、残っていることをその一言で悟る。 「父さんが、中に居るのか!?」 バリーは血だらけの顔で、ジョージの問いに頷いた。炎で崩れ落ちた教会に居るということは、絶命を意味していた。
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