「俺の為に、アンを見殺しにしたのか!?」 バリーはジャン・デボアの襟首を掴んだまま、同じ瞳の色をした老人を睨みつけた。 息が出来ない苦しさに、ジャン・デボアの顔が苦痛で歪んだ。 「クソじじい!」 そう悪態をつくと、掴んでいた襟首を放した。 言いようの無い怒りと虚しさの反面、バリーはジャン・デボアの言葉を理解していた。 「愛する者を全て排除し、何よりも非情に、徹するのだ。でなければ、”彼ら”を倒すことは出来ない。お前が、戦争をしかけようとする全ての”悪”を殲滅するのが、目的ならばな・・・」 それでも、彼は抑え様の無い怒りを爆発させる。 室内にあった調度品の数々を、素手で破壊し始めた。 それをまたモビーディックが止めようとするが、ジャン・デボアがそれを阻んだ。 自分が如何に、愚かなことをしているのは分かっていたが、壊さずにはいられなかった。 呼吸が乱れ、息が上がってしまう。 「気は、済んだか?」 その声に反応し、バリーはジャン・デボアを睨みつけた。 「怒り、暴れるがいい。それで気が晴れれば、全ての”怒り”は捨てるのだ」 乱れた呼吸の音だけが、耳に響く。 「まだ怒りが治まらぬのなら、私を殺すがいい。お前に殺されるのであれば、私は喜んで死を受け入れる」 もう一度、バリーはジャン・デボアの襟首を掴んだ。 「望み通り、殺してやる!」
「その代わり、”怒り”を捨て去り、”冷酷”に徹するのだ!」
どこかに、冷静な自分がいた。 その一言で、バリーは怒りを解き放つ事ができた。 「アンジェリアには、一目、会ってみたかった・・・」 その言葉に、背を向けていたバリーが振り返る。 「あの子は、ベアトリスの生き写しだったのだ。あの子に会い、この腕で抱きしめたかった・・・」 「いいや。生き写しではない」 呼吸を整えたバリーが、応えた。 「アンもベアトリスも、本物の”天使”だったんだ」 壁に掲げられていた、ベアトリスの肖像画を見上げると、さっきまで浮かべていた怒りの形相は消え、バリーは笑みを浮かべた。 「必ず、もう一度会える・・・」
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