バリーは、壁に掛けられた肖像画に近寄り、絵の中の彼女を見上げた。彼女は美しい微笑を湛えていたが、どこかアンジェリアと雰囲気が違っていた。 「それは、ベアトリスだ」 背後から、そう言いながら、ジャン・デボアがバリーに近付いた。 「ベアトリス?」 「お前の、祖母だ」 もう一度、その肖像画を見上げた。 父親にも、母親にも、強いては自分にも、誰にも似ていなかったアンジェリアは、肖像画の彼女・ベアトリスの血を引いていたのだった。 「彼女は、26歳で死んだ。お前の母親を産んで、すぐにな」 「26・・・。アンが死んだのも、26だ・・・」 バリーは、初めて運命というものを感じ始めていた。 ”偶然”ではない、全ては”必然”によって初めから決められていた、己の運命。 「じいさん、何故、俺を”後継者”に選んだ?」 バリーは、隣にいたジャン・デボアを見た。同じ瞳の色を持った男は、静かに応える。 「デボアを継ぐものは、何よりも秀でていなければならない。そしてお前は、私と同じ志、同じ運命を持っている・・・」 そう言うと、彼は自らの過去を、隣に立っていたバリーに語り始めた。
1891年、ジャン・デボアはセルビアの首都ベオグラードに、生を受ける。 彼はデボア家の正当な血統ではなく、情報将校グスタフ・イバニセビッチ大佐の長男、アレクセイ・イバニセビッチの名で産まれた。
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