バリーが書庫へ入り、12時間が過ぎても、出てくる気配は無かった。その間、彼は全く飲まず食わずで、本に夢中になっていた。 そして25時間が過ぎようとしていた時、秘密の書庫からバリーが出て来た。まるで何かに取り憑かれたような表情で、入り口で待っていたジャン・デボアに問いかけた。 「じいさん・・・。本当に、あれが”真実”なのか・・・?」 ジャン・デボアは、バリーの眼を見据えた。 「そうだ」 少し時間を要し、その応えの意味を理解した。 「信じられん・・・」 「1000年前より、”我々”は”世界”を統べる者として、その運命に従ってきた・・・」 バリーはジャン・デボアの眼を見たまま、ただ、その現実を受け入れようとしていた。
「デボアとは”世界を統べる者”の、一人。デボアとは、血塗られた一族なのだ」
ジャン・デボアは、その本と同じものが、ヴァチカン市国の中枢にある、法王のみが読むことが出来る書と、同じものだと言った。 秘密の書庫に在った本の内容を、バリーは頭の中で、何度も思い返す。
1000年前、”統べる者”の組織は自然発生的に、カペー朝フランク王国の闇に現れた。 東フランク王国に比べ、権力基盤の脆弱なカペー朝を強化させるべく、結成されたのが”統べる者”だった。 イングランドを陥れ、フランク王国各地で割拠していた諸侯達を統率する。 デボア家は、カペー朝に仕えた影の権力者であるド=ヌーブ伯の末裔であった。その後ハプスブルグ家に仕え、オーストリアで影の支配者となる。 デボア家の他に、”統べる者”は世界に80人存在していた。
つまり、この世界を統率しているのは国というものではなく、たった80人の人間が、政治・軍事・経済、すべての世界を支配しているというものだった。
「アンタの言うことが、よく分かったよ。確かに、デボアとは、この世の”真実”だ」 一族で直系の長兄が継ぐのではなく、例え正当な血筋では無くとも、優秀な者のみが後継者となれる。それを1000年もの間繰り返し、デボア家は”統べる者”となった。 「だが、それが”真実”ならば、デボアは俺の”敵”となる。だったら、尚更後継者になるわけには、いかない」 そう言うと、バリーはジャン・デボアを睨みつけた。鋭い眼光を放っているが、ジャン・デボアからは殺気も何も感じられなかった。 「ついて来い」 低い声で、ジャン・デボアが言った。
エレベーターで二階へ戻り、そこから違うエレベーターに乗り換え、三階へ向かった。屋敷の中心となる部屋に、ジャン・デボアの書斎があった。 「入れ」 モビーディックに車椅子を押されたジャン・デボアが、促した。 書斎へ足を踏み入れると、バリーは真正面に飾られていた女の肖像画に、足を取られる。 「まさか・・・!」 美しい金色の髪を靡かせた、碧の瞳の女が描かれていた。 「アンジェリア・・・!」
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