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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第258回   258
バリーが書庫へ入り、12時間が過ぎても、出てくる気配は無かった。その間、彼は全く飲まず食わずで、本に夢中になっていた。
そして25時間が過ぎようとしていた時、秘密の書庫からバリーが出て来た。まるで何かに取り憑かれたような表情で、入り口で待っていたジャン・デボアに問いかけた。
「じいさん・・・。本当に、あれが”真実”なのか・・・?」
ジャン・デボアは、バリーの眼を見据えた。
「そうだ」
少し時間を要し、その応えの意味を理解した。
「信じられん・・・」
「1000年前より、”我々”は”世界”を統べる者として、その運命に従ってきた・・・」
バリーはジャン・デボアの眼を見たまま、ただ、その現実を受け入れようとしていた。

「デボアとは”世界を統べる者”の、一人。デボアとは、血塗られた一族なのだ」

ジャン・デボアは、その本と同じものが、ヴァチカン市国の中枢にある、法王のみが読むことが出来る書と、同じものだと言った。
秘密の書庫に在った本の内容を、バリーは頭の中で、何度も思い返す。

1000年前、”統べる者”の組織は自然発生的に、カペー朝フランク王国の闇に現れた。
東フランク王国に比べ、権力基盤の脆弱なカペー朝を強化させるべく、結成されたのが”統べる者”だった。
イングランドを陥れ、フランク王国各地で割拠していた諸侯達を統率する。
デボア家は、カペー朝に仕えた影の権力者であるド=ヌーブ伯の末裔であった。その後ハプスブルグ家に仕え、オーストリアで影の支配者となる。
デボア家の他に、”統べる者”は世界に80人存在していた。

つまり、この世界を統率しているのは国というものではなく、たった80人の人間が、政治・軍事・経済、すべての世界を支配しているというものだった。

「アンタの言うことが、よく分かったよ。確かに、デボアとは、この世の”真実”だ」
一族で直系の長兄が継ぐのではなく、例え正当な血筋では無くとも、優秀な者のみが後継者となれる。それを1000年もの間繰り返し、デボア家は”統べる者”となった。
「だが、それが”真実”ならば、デボアは俺の”敵”となる。だったら、尚更後継者になるわけには、いかない」
そう言うと、バリーはジャン・デボアを睨みつけた。鋭い眼光を放っているが、ジャン・デボアからは殺気も何も感じられなかった。
「ついて来い」
低い声で、ジャン・デボアが言った。

エレベーターで二階へ戻り、そこから違うエレベーターに乗り換え、三階へ向かった。屋敷の中心となる部屋に、ジャン・デボアの書斎があった。
「入れ」
モビーディックに車椅子を押されたジャン・デボアが、促した。
書斎へ足を踏み入れると、バリーは真正面に飾られていた女の肖像画に、足を取られる。
「まさか・・・!」
美しい金色の髪を靡かせた、碧の瞳の女が描かれていた。
「アンジェリア・・・!」




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