ヴァージニア州マクレーンにある自宅へ戻ったとき、エドナー・ガーツは、その異変に気付いた。 背広の中に手を入れ、銃を取り出す。 そっと気配を殺し、エントランスの扉の前に立った。 ノブを回すと、鍵がかかっていない。 そっと中へ入り、殺気のする方へ警戒しながら足を勧進める。 ダイニングへ足を踏み入れた瞬間、ガーツの背に緊張が走った。 テーブルの上に一人、キッチンのカウンターに一人、そして床に一人の男が死んでいた。 皆、争った跡は無く、テーブルの上にいた男は背中からキッチンナイフで刺され、キッチンのカウンターに倒れていた男は、首が180度捻られ、床に倒れていた男はカービングナイフで心臓を一突きだった。 恐らく、彼らは自分を殺しに来た、CIAの暗殺者だった。 だが、皆鮮やかな手口で殺されている。 ガーツは銃を構えながら、辺りを見た。人の気配を、探ろうとした。 隣のリビング入ったとき、彼の後頭部に、何かが当たるのを感じた。それが銃口であることは、経験と”勘”で分かった。 「誰だ・・・?」 ガーツが、額から冷たい汗を流しながら言った。 「遅かったな。待ちくたびれたぞ」 その声に、ガーツの口元が緩む。 「タウバーか・・・。相変わらず、しぶといな」 「アンタに、話があってな。それでここへ来てみれば、アンタを殺しに来た殺し屋達が、ウヨウヨしてるじゃないか。驚いたよ」 頭に向けた銃口を、バリーはゆっくりと下ろした。それに気付き、ガーツは振り返って、バリーの顔を見る。 「さすがだな。CIAの殺し屋を、こうも鮮やかに殺っちまうとは」 「こいつらが、間抜けなだけだ」 バリーの応えに、ガーツは笑みを浮かべた。 「で、話とは何だ?ついに、俺を殺しに来たという訳か?」 バリーがマイケル・モラレスを救出しようとした時点で、彼はCIAを裏切った存在だった。暗殺を余儀なくされるのは、当然と言えた。 ガーツは、己の責務を果たしていた。 バリーがここへ来た理由は、仲間のパワーズを殺した報復として、ガーツを殺しに来たのだ。 だが、バリーの答えは、意外なものだった。 「いいや。アンタを、助けに来たんだ」 「助けに・・・?」 ガーツの眉間に、深い皺が刻まれた。 「俺と共に来い。俺の、ビジネス・パートナーになれ」 「お前・・・何を言ってるんだ・・・?」 バリーもガーツも、CIAから命を狙われる存在になったのだ。 にも関わらず、バリーは”自分と手を組め”と言ってきたのだ。 「この状況で、そんな事が言えるとは。お前は自分の状況が、分かっていないようだな」 「それは、アンタもだ。アンタもCIAが狙う、暗殺のリストに載ったようだからな」 ガーツは、バリーの透き通った水色の眼を見た。 「アンタを救えるのは、この俺だけだ」 バリーの言葉に、ガーツが”ある事”に気付いた。 「まさか・・・」 力を失った筈のバリーが、今でも”カード”を握っているということは、答えは一つしかなかった。 「まさか、デボアの力を・・・?」 その言葉に、バリーは小さく頷いた。 「じいさんが、しつこくてな」
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