9月ヴァージニア州ラングレー。
ここ数日前から、エドナー・ガーツは自分をつけてくる、誰かの気配を感じ取っていた。 その正体を、彼は薄々勘付いていた。 自分に尾行をつけさせたのは、恐らくCIA秘密作戦チームのメンバー、セドリック・マッコーリーであろう。
前月に、バリー・タウバーの「タウバー・ファーム」コントラクター、トーマス・パワーズを殺害した、4人の男たちが、突如として行方が分からなくなってしまった。
イランへの武器輸出を禁じていたアメリカは、非合法にイランまでの武器輸出ルートを築いた。 全てはバリー・タウバーの手によって。 だが、彼はKCIAの依頼を引き受け、CIAが消そうとしていたマイケル・モラレスを救出しようとした。結果的に、それは失敗に終わったが。 その事実を知ったCIAガーツの所属する秘密作戦チームは、バリー・タウバーを始めとする、「タウバー・ファーム」のメンバー全ての暗殺計画を企てる。 そしてアメリカ本土に姿を現した、トーマス・パワーズの暗殺が成功した。完全に、ファーベラ児童施設に来ていた、地上げ屋との諍いに巻き込まれて死んだ事になっている。 誰も、パワーズの死に疑問を抱くものなど、いないのだ。
そのパワーズを殺害した、4人の男たちの行方が分からなくなった。 それを知っているのは、秘密作戦チームのガーツと、マッコーリーのみ。 「この私が、疑われるとはな・・・」 バックミラーを見ながら、自分の車をつけてくる車を見て、ガーツは呟いた。
その夜、人間の気配が全く消えたラングレー郊外の廃工場に、バリーとクルーエル、ホアとマッカビーが、パイプ椅子に裸で縛られた、4人の男たちを見ていた。 椅子に縛られた男たちは恐れを抱いた目で、彼らを見上げた。 「こいつらが、トムを殺したんだ!」 マッカビーが、何度も男たちを殴っていた。バリーは、それを静観している。 「こいつらを、殺っちまおう!」 いかなる戦場でも沈着冷静なクルーエルが、珍しく鼻息を荒くした。 「こいつらはどうせ、CIAの犬だ!殺ろう!」 平和主義者のホアでさえ、怒りに燃えた復讐で、我を忘れていた。 「バリー!」 彼らは、一様にバリーに懇願した。男たちを、俺に殺らせてくれと、息巻いた。
「静かに」
一瞬、低く、よく通る声に、そこにいた誰もが萎縮した。 彼らは、バリーを見た。 彼の眼には、怒りも何も浮かんでいなかった。 ただ、静かな安らぎを湛える眼だった。 「デイビッド、二人を連れて、外へ出ていろ」 バリーは振り返りもせず、クルーエルに言った。 「お前、何をする気だ・・・?」 「早くしろ」 クルーエルはバリーを見た。 彼はカンボジア・スヌールで見た、バリーの後姿を思い出した。 クルーエルは、何も言わずホアとマッカビーを連れ外に出ると、扉を閉めた。 それを見送ったバリーは、ネクタイを緩め、椅子に縛られた、男たちを見る。 そしてブリーフケースから、研ぎ澄まされたマチェットナイフ(山刀)を取り出した。 彼らの顔に、恐怖が浮かび上がる。
「地獄へ行くのは、俺一人で充分だ・・・」
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