「バリー・タウバーの件だ」 リブキンの口から、その名を引き出すことが出来た。バリーと、目の前に居るこの男の間に、何があったのか。 ジョージは、自らの口を真一文字に結び、リブキンから情報を引き出そうと、時を待った。 「シカゴで、ある建物が炎上した。そこで焼死体で発見されたのが、バリー・タウバーだ。思い出したかね?」 リブキンの眼が、光る。 「ああ、シカゴで食品輸入商をやっていた・・・」 ジョージは、リブキンの視線を逸らした。彼を、恐れているのではなく、己の真意を読み取られない為に。 「あれは、事故のはずだったが、何故君が、捜査を続けているのだ?」 「何がです?」 ジョージは煙草の煙を吐きながら、わざと聞き直した。それが、作為的であることを見抜いていたリブキンは、口元に、微かな笑みを浮かべた。 「バリー・タウバーは、君の親友だからか?」 その言葉に、ジョージは全く微動だにしなかった。 「親友というより、彼は死んだ妻の兄だったのです。彼は、兄弟です」 「その兄弟が死んだから、あの”事故”を未だ調べ続けている。身内の不幸が二度も続いたのだから、君の気持ちも分からんでもない。だが、あれは”事故”なのだ」 リブキンの口調に、「これ以上、介入してはならない」と警告しているような威圧感を感じた。 「タウバーの焼死体を調べていた、シカゴ市警の担当検死官と、担当刑事が短期間で”事故死”に遭ったのです。そんな短期間に事故が起こる確率は、1000万分の1だ。これは、”事故”ではなく、明らかに”事件”です」 ジョージは、それでもリブキンの眼の少し下を見て、彼の視線を逸らした。 「それは、単なる君の”勘”ではないのかね?」 バリーが食品輸入商ではなく、兵器商となっていた事実と、リブキンがバリーとされた焼死体を確認しに来た事実を、ジョージは黙っていた。 「君は、何かを掴んだのか?」 「タウバーを調べていたら、必ず何らかの”機密”にぶち当たります。おかげで、何も掴めていませんよ」 そう言い放ったジョージを見据えると、リブキンの口元に笑みが浮かび上がった。 彼は、己の真意を読み取ったような、そんな錯覚を思わせるほどの笑みだった。 この男は、信用できない。 ジョージは、身体中にリブキンの威圧感を感じ取っていた。 「話は、これだけですか?何も無いのなら、自分のデスクへ戻ります」 そう言うと、ジョージは煙草を灰皿に押し付け、立ち上がって狭いオフィスを出ようとした。それを、リブキンが呼び止める。 「君は、優秀な男だ。犯人検挙率も高い。その上、予想以上に、頭が切れるようだ・・・」 「何が、言いたいんです?」 リブキンが、同じように煙草の火を、灰皿に押し付けた。 「有望な男が、そんな些細な事件を追うなど、時間の無駄だ。もっと、自分の未来を考えたまえ」 それを聞き、ジョージはオフィスを出た。
バリーの事件を追う限り、自分は出世出来ないと、脅しているのだ。
ジョージは、リブキンの持つ、とてつもなく強大な黒い影を感じ取っていた。
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