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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第24回   24
マーサはバリーを優しく抱き寄せる。
「泣かないで」
神様が許してくださるのなら、この二人を連れ去りたい。二人を抱きしめながら、マーサは応えた。
「私なら大丈夫。心配いりませんよ」
マーサは笑顔を浮かべ、バリーとアンの顔を見た。
「ほら、二人とも泣かないで」
二人の頬を流れ落ちる涙を拭い取る。
「私よりも坊ちゃん、自分の事を考えなさい」
「でもマーサ・・・」
マーサは二人がここにいることを心配した。
「さぁ、帰りなさい。でも何かあったら、スピラーン神父様を頼って」
バリーは静かに頷いた。
マーサは再び歩み始めた。ふと振り返ると、バリーとアンジェリアが手を振っている。
後年バリーはマーサ・ジョンストンの行方を捜したが、見つける事が出来なかった。彼女はこの6年後、膵臓がんにより他界する。彼女の死をバリーが知ったのは、16年後のことだった。

ミシシッピー川を溯り一層深くなる森を抜けると、真っ直ぐ通った道がある。この道の先に、ジョージ・スピラーンの家があった。
もう日が暮れ始めている。自分には泣いている暇など無いと言い聞かせながら、後ろで泣いているアンに、しっかりつかまっているように言い、先を急いだ。
「アン、ジョージの家だ」
古ぼけた木の家のテラスには、既に明かりが灯っている。家の前で自転車を停め、アンを連れて家のドアを叩いた。
「ジョージ!開けてくれ!」
中から床を踏みしめる足音が近付いてくると、ドアがゆっくりと開いた。
「どうしたの!?」
中から現れたのはロレーナ・スピラーンだった。
「ジョージはどこですか?」
「ジョージはケイブさんのとうもろこし畑の手伝いに行ってるわ」
「じゃ、神父様は?」
「まだ教会よ。とにかく入りなさい」
ロレーナは二人を優しく迎え入れると、アンを抱き上げた。彼らの神妙な面持ちに、ロレーナは何かを感じ取っていた。
二人をリビングに入れると、キッチンで飲み物を冷蔵庫から出し、二つのコップに注ぎ込む。それをバリーとアンの前に差し出した。
「ミルクチョコレートよ。のど渇いたでしょ」
ロレーナは笑みを浮かべた。しかし彼らは手をつけようとしない。ロレーナは二人の前に座った。
「甘いミルクチョコレートは、しかめっ面も、笑顔にしてくれるわよ」
バリーは躊躇いながらミルクチョコレートを一口流し込む。甘い、チョコレートの香りが口の中に広がっていった。
「おいしい・・・」
バリーの口角が僅かに上がる。それを見たアンジェリアが両手でコップを掴むと、一気に飲み干した。
「おいしい!」
「もう一杯飲む?」
「うん!」
アンは満面の笑みを浮かべた。
「言ったとおりでしょう?“こんな時”は、甘いミルクチョコレートを飲むのが一番よ!」
バリーは自分たちが感じていた「何かの」負い目をロレーナが察してくれたことに、今まで耐えていた壁が音を立てて崩れたような気がした。バリーの瞳から堰を切ったように、大粒の涙が流れ落ち始める。それを見たアンも、同じように泣いた。
ロレーナは何も言わず、二人をやさしく抱き寄せた。


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