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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第238回   238
サプレッサーを装着したM4A1を構えながら、チャーリーチームのポイントマンが西のメインエントランスへ突入。
大使館を占拠していた学生たちは、その異変に気付き、声を上げる。彼らはエントランスへ向かって、デルタフォースの隊員を撃った。だが彼らは、その弾丸を受けているにも関わらず、誰一人として倒れない。
その隙に、アルファとエコーチームは東と南の塀から侵入した。
クラッキオーロはアルファの後に続き、大使館内に入った。
そこで、彼は奇妙な感覚に襲われる。
あまりにも、この大使館内が”静かすぎる”のだ。何故か、嫌な予感がしていた。

アルファチームの二人が、見張りのイラン人学生をナイフで殺し、二階へ駆け登った。
それに続こうとして階段に駆け寄ったとき、クラッキオーロは一階の奥に、何かの”気配”を感じる。部下のマカリスターとライリーに、手で「こちらを確認する」と合図を出した。
廊下の突き当たりに、簡素な造りのドアがあった。地下へと続く、書庫がある扉だった。
クラッキオーロはドアの傍へに張り付き、その反対側にポイントマンのマカリスターが張り付いた。クラッキオーロは指で3カウントを数え、0で突入をかける。
中には誰も居なかった。本棚が立ち並び、書類が整理されているだけの部屋だ。
だがクラッキオーロは、その”殺気”を的確に感じ取っていた。誰かが、この部屋のどこかにいる。M4A1を構えながら、本棚の一つ一つを確認していった。
最後の棚の奥を確認しようとしたとき、手に一瞬の”衝撃”を受けた。
クラッキオーロが構えていたM4A1が、いつの間にか消えていたのだ。
彼は前を見ると、そこにM4A1を手にした、ネクタイの男が立っている。
咄嗟にマカリスターとライリーが、本棚の向こうにいる男に銃を向けた。
男は本棚を蹴り、それはドミノのように倒れていった。
「お前は誰だ!?大使館員では無いのか!?」
クラッキオーロが叫びながら、男にSIG-P226を向けるが、それもいつの間にか自分の手の中から、男の攻撃で弾き飛んだ。
彼は訓練を重ね、実戦経験も多い精鋭のSAS隊員で、”最強”と呼ばれた男である。
一瞬でその男に武器を奪われ、それが理解できずにいながらも、男に攻撃を仕掛けた。
だが男に拳を繰り出した瞬間、自分の身体が宙を舞い、地面に叩きつけられてしまった。
「無駄だ。俺には、お前の一寸先が見える」
自分の上官であるクラッキオーロが、いとも簡単に投げ飛ばされる姿を見たマカリスターとライリーは、SASであれほど過酷な訓練を生き残って来た強者である筈が、一瞬の内、戦意を喪失する。
地面に叩きつけられたクラッキオーロでさえも、何が起こったか理解できなかった。
「クソ!」
正気に戻ったマカリスターとライリーが、男に飛び掛るが、結果は同じだった。それを見たクラッキオーロは、もう一度男に攻撃を仕掛ける。
二人が投げ飛ばされる姿を見て、男の体術を理解した。
男は攻撃を円を描きながら避けると、その流れのままに彼らを投げ飛ばしている。二人の攻撃の”力”を、自分の”力”に変えていた。
クラッキオーロはそう理解し、拳を繰り出した。
しかし、結果は同じだった。
気付くと、また地面に叩きつけられていた。
「力に頼ろうとするな。だがお前、強いな。デルタフォースの隊員か?」
地面に叩きつけられたクラッキオーロに、男が話しかけた。
「違う・・・。俺は、イギリス陸軍SASのクラッキオーロ大尉」
「SAS・・・」
「そういうアンタは、誰だ?」
透き通った水色の瞳を光らせ、息一つ乱していない男は、笑みを浮かべた。
「俺は、バリー・タウバー。タダのビジネスマンだ」


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