サプレッサーを装着したM4A1を構えながら、チャーリーチームのポイントマンが西のメインエントランスへ突入。 大使館を占拠していた学生たちは、その異変に気付き、声を上げる。彼らはエントランスへ向かって、デルタフォースの隊員を撃った。だが彼らは、その弾丸を受けているにも関わらず、誰一人として倒れない。 その隙に、アルファとエコーチームは東と南の塀から侵入した。 クラッキオーロはアルファの後に続き、大使館内に入った。 そこで、彼は奇妙な感覚に襲われる。 あまりにも、この大使館内が”静かすぎる”のだ。何故か、嫌な予感がしていた。
アルファチームの二人が、見張りのイラン人学生をナイフで殺し、二階へ駆け登った。 それに続こうとして階段に駆け寄ったとき、クラッキオーロは一階の奥に、何かの”気配”を感じる。部下のマカリスターとライリーに、手で「こちらを確認する」と合図を出した。 廊下の突き当たりに、簡素な造りのドアがあった。地下へと続く、書庫がある扉だった。 クラッキオーロはドアの傍へに張り付き、その反対側にポイントマンのマカリスターが張り付いた。クラッキオーロは指で3カウントを数え、0で突入をかける。 中には誰も居なかった。本棚が立ち並び、書類が整理されているだけの部屋だ。 だがクラッキオーロは、その”殺気”を的確に感じ取っていた。誰かが、この部屋のどこかにいる。M4A1を構えながら、本棚の一つ一つを確認していった。 最後の棚の奥を確認しようとしたとき、手に一瞬の”衝撃”を受けた。 クラッキオーロが構えていたM4A1が、いつの間にか消えていたのだ。 彼は前を見ると、そこにM4A1を手にした、ネクタイの男が立っている。 咄嗟にマカリスターとライリーが、本棚の向こうにいる男に銃を向けた。 男は本棚を蹴り、それはドミノのように倒れていった。 「お前は誰だ!?大使館員では無いのか!?」 クラッキオーロが叫びながら、男にSIG-P226を向けるが、それもいつの間にか自分の手の中から、男の攻撃で弾き飛んだ。 彼は訓練を重ね、実戦経験も多い精鋭のSAS隊員で、”最強”と呼ばれた男である。 一瞬でその男に武器を奪われ、それが理解できずにいながらも、男に攻撃を仕掛けた。 だが男に拳を繰り出した瞬間、自分の身体が宙を舞い、地面に叩きつけられてしまった。 「無駄だ。俺には、お前の一寸先が見える」 自分の上官であるクラッキオーロが、いとも簡単に投げ飛ばされる姿を見たマカリスターとライリーは、SASであれほど過酷な訓練を生き残って来た強者である筈が、一瞬の内、戦意を喪失する。 地面に叩きつけられたクラッキオーロでさえも、何が起こったか理解できなかった。 「クソ!」 正気に戻ったマカリスターとライリーが、男に飛び掛るが、結果は同じだった。それを見たクラッキオーロは、もう一度男に攻撃を仕掛ける。 二人が投げ飛ばされる姿を見て、男の体術を理解した。 男は攻撃を円を描きながら避けると、その流れのままに彼らを投げ飛ばしている。二人の攻撃の”力”を、自分の”力”に変えていた。 クラッキオーロはそう理解し、拳を繰り出した。 しかし、結果は同じだった。 気付くと、また地面に叩きつけられていた。 「力に頼ろうとするな。だがお前、強いな。デルタフォースの隊員か?」 地面に叩きつけられたクラッキオーロに、男が話しかけた。 「違う・・・。俺は、イギリス陸軍SASのクラッキオーロ大尉」 「SAS・・・」 「そういうアンタは、誰だ?」 透き通った水色の瞳を光らせ、息一つ乱していない男は、笑みを浮かべた。 「俺は、バリー・タウバー。タダのビジネスマンだ」
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