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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第236回   236
4月24日早朝。
まだ夜が明けきれぬ頃、砂嵐が吹き荒れる、テヘラン郊外のサッカースタジアムに、アメリカ海兵隊のマークが入った、8機のシコルスキーRH-53D輸送ヘリが着陸。
中から、黒いファテイーグと防弾ベスト、ヘルメットにゴーグルを着けた、重装備の男たちが次々と、飛び降りた。
その中でも、2mを越す長身の男が降り立つ。
彼の名は、サミュエル・”アッシュ”クラッキオーロ大尉。
イギリス陸軍特殊部隊、SASの部隊長を務めている男だった。
3年前の1977年、SASをモデルとしてアメリカ陸軍チャーリー・ベックウィズ大佐の下、第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊、通称・デルタフォースが、対テロ部隊として創設された。
イラン・アメリカ大使館に幽閉された人質を救出する作戦・イーグル・クロー作戦に、今回初めてデルタフォースが、投入されるのだ。
彼は二人の部下を連れ、”オブザーバー”として参加することとなった。
立場こそ”オブザーバー”であったが、この救出作戦の事実上、実行部隊の一人となる。

作戦内容は、アルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ、エコーの5チームに別れ、アメリカ大使館の東西南北から侵入。そこから急襲をかけるというものだった。
クラッキオーロは、ブラボーチームの隊長となり、先陣を切るアルファチームの補佐も兼ねた。
無線から、アルファチームがサッカースタジアムを出発したと、合図があった。
クラッキオーロはSASの部下である、マカリスター少尉とライリー少尉の顔を見ると、喉に着けた無線機で合図を送った。
「ブラボー1、出発する!」

同じ頃、バリーはアメリカ大使館二階廊下の執務室を望む、排気口の中で息を潜めていた。
真下で、大使館を占拠したイラン人の学生が、通り過ぎていく。それを見送ると、排気口の鉄格子を外し、廊下へ降り立った。
目の前にある鏡に、バリーの姿が映し出される。
彼は白いワイシャツにネクタイを締め、黒縁のメガネをかけていた。
「どこから、どう見てもタダの大使館員だな」と自分で関心しながら、バリーは目の前にある執務室に近付き、ピッキングで鍵を開けた。鍵が外れ、簡素なドアを、ゆっくりと開ける。
その瞬間、右側から強烈な殺気を感じ、バリーの身体は咄嗟に反応した。
円を描きながら、バリーは棒を振りかぶした男の背後へ回り込み、その腕を捻り上げると、後頭部に当身を繰り出し、男を気絶させた。
その後ろで、もう一人の男が棒を振りかざしている。
攻撃をしかけた、その男の腕を掴み、同じように背後へ回り込むと、男の身体を地面に叩き付けた。
「アンタ、マイケル・モラレスだな」
バリーがその男、マイケル・モラレスの耳元で、小さく囁いた。


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