2ヶ月前、イスラエル・エルサレムで”聖統合教会”のチェ・ジュンスは、ベン・ナサニエル首相との会談後、バリーに接触を諮ってきた。 イランに、核が持ち込まれた情報を持っていた彼を見込んで、秘密裏に、ある”依頼”を申し込んできたのだ。 その内容は、イランでのアメリカ大使館で人質になっている、ある男の救出だった。
救出対象者は、常駐大使館員である、マイケル・モラレス。 その実、モラレスはCIA・イラン地域秘密作戦室ののケースオフィサーだった。
「だから、何故韓国人の、しかも新興宗教とはいえ、一人の宗教家がモラレスの救出を?チェ・ジュンスには、何の利点があるんだ?」 クルーエルが地図を片手に、もう一度バリーに問いかけた。 「イランに核が持ち込まれた情報だが、弾頭はソ連製のようだ。だが、北朝鮮を経由して運び込まれている。マイケル・モラレスは、その情報を最初に掴んだ男だ」 「ますます分からん。同じ朝鮮半島の人間とはいえ、チェ・ジュンスは韓国籍で、しかもアメリカで活動しているんだぞ。まさか、世界平和のためでも無いだろう」 バリーはクルーエルの言葉に、笑い声を上げた。 「何だ、お前、まだ気付かないのか?」 「何がだ?」 「恐らく、チェ・ジュンス神父は、KCIA(韓国中央情報局)のエージェントだ。しかも、相当腕利きのな」 接触したときの、チェ・ジュンスから発せられる、強烈な殺気を、バリーはひしひしと感じていた。 「あんな殺気を出す男が、神父とは笑える。あれは、何人もの人間を消してきた男の殺気だ」 それでも、クルーエルは納得しなかった。不満げな表情を浮かべる彼に、バリーは話を続けた。 「北朝鮮が関わっているとなると、チェ・ジュンスは国家安全保障という名目で動いている可能性はある。しかし何故、アメリカが見放したモラレスを、KCIAのチェ・ジュンスが救おうとするのか・・・」 クルーエルはバリーを見た。 「もし、俺の”読み”が正しければ、マイケル・モラレスは、アメリカ政府という根幹を、揺るがす存在になる・・・」
|
|