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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第234回   234

「目標高度、33000フィート(10000m)に到達」
決して快適とは言えない機内に、機長のアナウンスが流れた。
バリーは顔を覆っている、酸素マスクを触り、ヘルメットのバイザーを下げた。隔壁に張り付いていた簡易型の椅子から、シートベルトを外し、立ち上がってハッチの前に立つ。
そこに同じ装備の男が、4人立っていた。
「いいですか、1000フィート(300m)になったら、パラシュートを開いて下さい!」
ハッチを開くボタンの前に、アシストの男が大声を張り上げた。
バリーは、その言葉に親指を突き上げ、それに応える。
ハッチのランプが、赤から黄色に変わった。それを見たアシストの男が、ハッチの開閉ボタンを押す。同時に、風が機内に吹き荒れ、月明かりに照らされた雲海が、眼下に広がった。
「ゴーゴーゴーゴー!」
アシストの男が、叫ぶ。バリーと4人の男たちは、ハッチの外に走り出た。

HALO(ヘイロウ)ジャンプ(高高度降下低高度開傘)である。
バリーは、落下しながら水平線を見た。水平線というよりも、地球の形が分かるくらいの、高高度だった。
雲海を抜け、見る見る間に、地上の砂漠が見えてくる。時速320kmで落下しながら、バリーは腕に付けた高度計を見た。
1000フィートに到達。肩のベルトに貼り付いていた、パラシュートのレバーを引いた。
身体に衝撃がかかる。同じように降下していた他の4人も、次々とパラシュートを開いた。訓練通りだ。
バリーは下を見て、降下地点を確かめる。パラシュートを開いた音で、下にサーチライトが点滅した。バリーたちは、その光に向けて降下する。

サーチライトが光っていた地点には、3台のジープと、1台のトラックが、彼らを待っていた。
バリーはパラシュートを切り離し、酸素マスクとヘルメットを取った。防寒用のつなぎを脱ぎ捨て、黒いファーティーグ(迷彩)に防弾ベストという、いでたちになった。
「バリー様、お待ちしておりました。装備は、トラックに全て用意しております」
ジープから、男が降りた。バリーは彼の肩を叩き、笑みを浮かべる。
「助かったよ。ゴースト・・・いや、モビーディックと爺さんに礼を言っておいてくれ」
そう言うと、男は小さく頷いた。
同じように他の4人も、酸素マスクとヘルメットを取る。クルーエル、ホア、パワーズ、マッカビーの4人だった。
バリーとクルーエルがジープに乗り込み、ホアとマッカビーが、もう1台の
ジープへ。そしてトラックにはパワーズが乗り込んだ。
バリーはジープに積まれてあった地図を広げ、腕に着けていたコンパスを確認する。テヘランの西北、カスピ海を臨む150マイル(250km)の地点に居た。
「出発する!」
バリーが首に着けていた無線で、他のメンバーに号令を出した。

少し進んだ所で、クルーエルがバリーに問いかけた。
「しかし、韓国人の、しかもまるで関係の無い”聖統合教会”のチェ・ジュンスが、何故俺たちに”依頼”をする必要があるんだ?」
「出発前に、ブリーフィングで話した通りだ。聞いてなかったのか?」
バリーが応えた。


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