「目標高度、33000フィート(10000m)に到達」 決して快適とは言えない機内に、機長のアナウンスが流れた。 バリーは顔を覆っている、酸素マスクを触り、ヘルメットのバイザーを下げた。隔壁に張り付いていた簡易型の椅子から、シートベルトを外し、立ち上がってハッチの前に立つ。 そこに同じ装備の男が、4人立っていた。 「いいですか、1000フィート(300m)になったら、パラシュートを開いて下さい!」 ハッチを開くボタンの前に、アシストの男が大声を張り上げた。 バリーは、その言葉に親指を突き上げ、それに応える。 ハッチのランプが、赤から黄色に変わった。それを見たアシストの男が、ハッチの開閉ボタンを押す。同時に、風が機内に吹き荒れ、月明かりに照らされた雲海が、眼下に広がった。 「ゴーゴーゴーゴー!」 アシストの男が、叫ぶ。バリーと4人の男たちは、ハッチの外に走り出た。
HALO(ヘイロウ)ジャンプ(高高度降下低高度開傘)である。 バリーは、落下しながら水平線を見た。水平線というよりも、地球の形が分かるくらいの、高高度だった。 雲海を抜け、見る見る間に、地上の砂漠が見えてくる。時速320kmで落下しながら、バリーは腕に付けた高度計を見た。 1000フィートに到達。肩のベルトに貼り付いていた、パラシュートのレバーを引いた。 身体に衝撃がかかる。同じように降下していた他の4人も、次々とパラシュートを開いた。訓練通りだ。 バリーは下を見て、降下地点を確かめる。パラシュートを開いた音で、下にサーチライトが点滅した。バリーたちは、その光に向けて降下する。
サーチライトが光っていた地点には、3台のジープと、1台のトラックが、彼らを待っていた。 バリーはパラシュートを切り離し、酸素マスクとヘルメットを取った。防寒用のつなぎを脱ぎ捨て、黒いファーティーグ(迷彩)に防弾ベストという、いでたちになった。 「バリー様、お待ちしておりました。装備は、トラックに全て用意しております」 ジープから、男が降りた。バリーは彼の肩を叩き、笑みを浮かべる。 「助かったよ。ゴースト・・・いや、モビーディックと爺さんに礼を言っておいてくれ」 そう言うと、男は小さく頷いた。 同じように他の4人も、酸素マスクとヘルメットを取る。クルーエル、ホア、パワーズ、マッカビーの4人だった。 バリーとクルーエルがジープに乗り込み、ホアとマッカビーが、もう1台の ジープへ。そしてトラックにはパワーズが乗り込んだ。 バリーはジープに積まれてあった地図を広げ、腕に着けていたコンパスを確認する。テヘランの西北、カスピ海を臨む150マイル(250km)の地点に居た。 「出発する!」 バリーが首に着けていた無線で、他のメンバーに号令を出した。
少し進んだ所で、クルーエルがバリーに問いかけた。 「しかし、韓国人の、しかもまるで関係の無い”聖統合教会”のチェ・ジュンスが、何故俺たちに”依頼”をする必要があるんだ?」 「出発前に、ブリーフィングで話した通りだ。聞いてなかったのか?」 バリーが応えた。
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