ナサニエルは、あと数分で落ちる。 それを感じ取ったバリーは、そのまま黙って彼を見据え、答えを待った。 「・・・分かった。貴方の言う言葉に乗りましょう」 ナサニエルがそう言うと、アロン・バージェスに今後の商談について、バリーと話を詰めるように指示を出した。 バリーはその姿を目で追いながら、次の言葉に進んだ。 「そう言えば、ある”噂”を聞きましてね・・・」 その声に、ナサニエル、アロン・バージェス、チェ・ジュンスがバリーの顔を見た。 「イランに、核が持ち込まれたと聞いたのですが・・・」 三人は、バリーの言葉に反応する。バリーはナサニエルを見た。唯一、バリーの眼を逸らした男だった。 「プレジデント、貴方なら何かご存知なのでは?」 ナサニエルは、葉巻を深く吸いながら、首を横に振った。 「確かに、その”噂”なら聞いたことがあるが、”確証”は無いですよ」 イスラエルには、世界最高峰の諜報機関・モサドがある。 そのモサドが、イランに核が持ち込まれた事実を、知らぬはずが無かった。バリーはナサニエルが、真実を知っていると直感した。 「分かりました。やはり、イランに核が持ち込まれた事実は、”噂”に過ぎなかったようですな」 そう言いながら、バリーは灰皿に煙草を押し付けて、火を消した。 部屋に居た三人の中で、核の言葉を出した瞬間、殺気を出した男がいた。バリーは、その男、チェ・ジュンスを見る。 彼は穏やかな表情を浮かべているが、この男がタダの宣教師では無いことを感じていた。 「話が、逸れてしまいましたな」 バリーが立ち上がる。ナサニエルは、彼に握手を求めた。 「では、後はアロンと話を詰めてください。私はこれで、公務に戻らねばなりません」 「貴方に、お会い出来て良かった。私と、このような会談の場を持っていただいた事を、感謝します」 バリーは握手のグリップに力を込めながら、そう応えた。 「友好国である、アメリカの為です。幾らでも、協力を惜しみませんよ」
アロン・バージェスとの商談を終え、バリーはグルダ少尉に連れられ、エルサレム市内のホテルに入った。 前年に設立されたばかりの、高級ホテル・リモニムだった。 グルダがチェックインを済ませると、バリーは最上階にある、ペントハウスに入った。 「私も、このホテルに泊まります。何かあれば、8045室に連絡ください」 そう言うと、グルダが部屋を出た。バリーは部屋を見渡し、電話の受話器を確認する。すると、盗聴器が仕掛けられてあった。 それどころか、部屋の至る所に、ワイヤレス式の盗聴器があった。 グルダは8045室に居ると言ったが、恐らくバックヤードで、この部屋の音を拾っているに違いない。 バリーは受話器を取り、ルームサービスを頼んだ。 程なくして、部屋にウエイターが入ってくる。バリーは胸ポケットに仕込んでいたマイクを外し、ウエイターに手渡した。 それと引き換えに、ナプキンを手渡す。その中に、メモが挟まれていた。
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