その言葉を聞いて、少なからず多少の驚きを見せたのはアロン・バージェスだった。しかしナサニエルと、チェ神父は何の反応も見せず、ただ淡々としていた。 「アメリカは、人質救出を考えていたのではなかったのか?」 バージェスが問いかける。 「あくまで、”表向き”はと、言ったはずです」 バリーは、そう言いながらナサニエルを見た。彼も一国の元首として、アメリカの意志は、理解できるようだった。 「イランは、是が非でもアメリカの最新鋭の武器を、手に入れたいのです」 「その理由は?」 バージェスが言った。 「アメリカから武器を輸入する、強固なイラクに対しての、武力強化です」 前年、バース党から大統領となったサダム・フセインは、イランで起こった革命の混乱に乗じて、国境線を有利に攻め、尚且つイラク国内で起こりつつあった、”革命”の波及を止めるために、イランを攻め落とす機運が高まっていた。 「なるほど。”一理”あるな」 ナサニエルが小さく呟いた。 「確かに、”一理”です。このアメリカ大使館人質事件は、”三理”も、”五理”も存在します」 バリーが続けた。 「ホルムズ海峡で、現在アメリカ艦隊が海上の経済封鎖を行っています。イランはこの海上封鎖を解くように要求しているが、アメリカは、これを逆手に取ることが出来る。どうしてもアメリカの最新鋭の武器が欲しいイランに、武器を買えと迫るのです。アメリカは、大使館員の人質など、どうでも良いと思っているのですから・・・」 「さっきから聞いていれば、大使館を占拠した犯人は学生ではなく、イラン政府が言っているように聞こえるのだが」 煙を吐きながら、バージェスが訊ねた。 「当然です。きっかけは学生にせよ、今、彼らの背後にいるのは、イラン政府なのです」 「ではイランと交渉するのは、貴方が・・・?」 そう言うと、立っていたナサニエルが、マホガニーのデスクに腰掛けた。 「いいえ。イランとの交渉には、バシャール・サラディンに赴いていただきます」 その名前が出たとき、部屋にいた三人の表情が変わった。 「誰とも組まなかった、あの業突く張りの兵器屋が、動いたのか!」 バージェスが、感嘆の声を上げる。 その意味を、ナサニエルもチェも、よく理解していた。中東各地に有力なコネクションを持っているサウジの兵器商、バシャール・サラディンが赴けば、この交渉は確実に成功する。 この交渉がうまく行くのであれば、イスラエルの首相であり、兵器商であるベン・ナサニエルが仲介をする意義があった。 これは単なる儲け話ではなく、イスラエルがレバノンに侵攻したことに、懸念の意を示していたイランに対して、牽制をかける事ができるのだ。 「虚勢を張っていても、水面下では、我々に有利な状況も作り出せるということだな・・・」 ナサニエルが、腕を組み、独り言のように呟いた。
|
|