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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第229回   229
バリーは室内にいた、二人の男の顔を見た。
一人は、口元に白い髭を蓄えた男で、鋭い眼光をバリーに向けていた。
男の名は、アロン・バージェス。ナサニエルが経営する、武器製造会社のCEOだと、ナサニエルが紹介した。握手を交わしながら、バージェスは低い声で話した。
「聞きましたよ。貴方は、”デボア”の後継者だとか・・・」
「いいえ、違います。じいさんが、勝手にほざいているだけです」
バリーは笑みを浮かべながら、握手したグリップに力を込め、それに応えた。その応えに、バージェスは眉間にしわを寄せた。バリーの言葉に、少し気を悪くしたようだった。
もう一人の男が、ソファから立ち上がり、バリーのそばに近寄った。
「彼は、”聖統合教会”から来た、チェ・ジュンス神父です」
男は、アジア系特有の顔つきをしていた。チェという名前からして、中国人か、韓国人だろうとバリーは思った。
「”聖統合教会”?」
「イエス・キリストを信仰する、韓国の団体です」
首から大きなロザリオをかけたチェ神父は、笑みを浮かべながら、バリーに握手を求めた。
バリーは”聖統合教会”という名を、記憶の中から手繰り寄せた。
朝鮮戦争直後に、韓国で発生した新興宗教である。だが、何故この席に、この男が存在しているのか、バリーは思考を巡らせた。
「私が、何故ここにいるか、不思議に思っているようですね」
その様子を察知したチェ神父が、バリーの心情を言い当てた。
「”聖統合教会”は、1972年から中東各地で”慈善活動”をし、中東における各国で信者を増やしているんです。今回のことでも、何か役に立てるのではと、彼らから申し出がありましてな。同席いただいた次第なんですよ」
ナサニエルが、それを補足した。
1972年頃から、”慈善活動”と称し、消費期限が切れた医薬品を大量に中東でバラ蒔いた。
それを受け取った人々は、”聖統合教会”を歓迎し、信者となっていく。
だが、バリーはチェ・ジュンスを冷徹な眼で睨みつけた。彼は、”神”はもとより、新興宗教は尚更信用していなかったのだ。
「アメリカ大使館を通して、連絡が入ったときは驚きましたよ。まさか、人質を取った犯人たちの要求を、アメリカが呑むとは」
その険悪な雰囲気に割って入るように、ナサニエルが口を開いた。
「アメリカの意志は、人質を救出すること。しかし、それはあくまで”表向き”のものです」
バリーが応えた。
「それでは、話を進めましょう」
バリーは、ソファに腰を沈めるとシガーケースから取りだした煙草をくわえ、火を点けた。
「アメリカは”要求”を呑んで武器を”渡す”のではなく、武器を”売る”ことを考えています」
「”売る”?犯人は武器を”渡せ”と言っているのだ。そんな事が、可能なのか?」
葉巻を吸っていたバージェスが、寄せていた眉間のしわを、更に深く刻ませた。
「可能ですよ。何故なら、アメリカは大使館員の人質の命など、どうでも良いと考えているからです」


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