10日後、バリーはイスラエル、ベン・グリオン空港へ降り立った。 イミグレーションを通り抜け、ゲートを通ると、白いワイシャツに紺のスラックスという、いでたちの男が、バリーに近寄ってきた。 「ミスター・タウバーですね?」 そう、問いかける。バリーはサングラスを取り、そうだと応えた。 「私は、マナセ・グルダ少尉です。この国で、貴方の護衛兼、案内を勤めます」 その男・グルダ少尉は、人懐っこい笑みを浮かべながら、バリーに握手を求めた。 「よろしく、頼むよ」 バリーは、それに応える。 彼は一見して細身で、背は小さく、頼りなさそうな雰囲気を醸し出しているが、イスラエル国内で活動する、軍情報部”アマン”の情報将校だった。その小さな身体から漂わせる”殺気”が、彼の戦闘能力の高さを物語っていた。 そして、バリーを監視するための男でもある。 「では、案内します」 そう言うと、グルダは空港の外に停めてある車へと誘った。車へ乗り込み、そこから目的地であるエルサレムへ向かう。一時間弱の道のりだった。 道中グルダはバリーが、どういう人間なのか、色々と会話を持とうとするが、バリーはその間、全く口を開こうとしなかった。
彼は、この国を嫌っていたのである。
自分にも、半分はユダヤ人の血が入っているとはいえ、”聖地”に来たという感慨は無く、むしろ怒りさえ覚えていた。 ユダヤ人である父親、ジョナサン・タウバーの血を引いていることが、彼には耐えがたい苦痛だった。 その為、グルダが”嘆きの壁”を案内したときでも、彼の眼は冷ややかだった。 「ただの、”壁”じゃないか」 原因の中に存在する、”真因”として、中東で起きている紛争が、この”嘆きの壁”で無いにせよ、こんなものの為に、”無駄”な争いを続けているのが、バリーには許せなかった。
バリーを乗せた車は、聖地・エルサレムの、郊外にある白亜の官邸に入った。 厳重な警備を通り抜け、車はエントランスの前に停まる。グルダが運転席を降り、後ろに座っていたバリーの後部座席のドアを開け、エスコートをした。 「どうぞ、お降り下さい」 車から降り、前を歩くバリーにグルダが走り寄ると、二階にある書斎へ誘った。 「既に、お部屋でお待ちです」 そう言うと、グルダが部屋をノックし、中から入るようにを声が聞こえた。重厚な扉が開くと、煌々と焚かれる暖炉の前に、イギリス・オートクチュールのスーツを着た白髪の紳士が立っていた。 「お待ちしておりましたよ。ミスター・タウバー」 紳士は柔和な笑みを浮かべて、バリーに握手を求めた。 「こちらこそ。お会いできて光栄です。プレジデント・ナサニエル」 そう言いながら、バリーは握手に応える。
ベン・ナサニエル。彼は、この国の首相であった。
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