20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第225回   225
NYラ・ガーディア空港に、深紅のボーイングが着陸した。どの航空会社にも所属していない、個人所有のプライベート・ジェットである。
特別専用レーンに入り、旅客ターミナルビルに停止すると、中から赤いチェックの布を頭に巻き、サウジアラビアの民族衣装であるトーブを着た男が降り立った。

彼の名は、サウジアラビアの豪商、バシャール・サラディン。
かけていたサングラスを取り、サラディンは空を見上げた。
「なんと、寒い国だ・・・」
彼は眉間にしわを寄せ、不服そうに呟いた。
自分が信頼し、天才で常勝無敗といわれた証券ディーラーであるヘイデン・ターナーが、”仕手”にやられたとはいえ、400億ドルという前代未聞の損失を出した。何が起こったのか確かめるために、彼はこのNYに降り立った。

ミッドタウン・マンハッタンにある五つ星ホテル、セントレジスの最上階のペントハウスに入ると、サラディンはヘイデン・ターナーを待った。
彼は、大きく突き出た腹を触りながら、秘書に電話をかけさせ、ほどなくしてルームサービスが入ってきた。
「ご注文の、ポール・ジロー、”ビクター・サイモン”でございます」
そう言うと、そのままウエイターが、クーラーからボトルを取り出し、グラスに酒を注いだ。
サラディンは待ちかねたように、グラスを取り、ビクター・サイモンを口に流し込んだ。イスラム教圏であるサウジアラビアでは、好きな酒も飲むこともままならないが、これは国を出るときの、一つの愉しみでもあった。
「その姿は、厳格なイスラム教信者とは思えませんな」
広い室内に、張りのある声が響く。サラディンが振り返ると、部屋の入り口に、見慣れない男が立っていた。
「お前は・・・何者だ?」
その男の背後から、細身のメガネをかけた男が、顔を覗かせた。
ヘイデン・ターナーである。だが、その前にいる男に、覚えが無かった。
「ミスター・サラディン、彼は・・・」
ターナーが口を開く前に、前にいた男が、それを遮った。
「私は、バリー・タウバーと申します」
「タウバー?」
サラディンは、部屋の入り口を見た。そこには、体格の良い四人の男が、部屋を守っているはずだったが、その姿はどこにもいなかった。
「ターナー、何故この男を連れてきたのだ?」
サラディンが怪訝な表情を浮かべながら、バリーを睨みつける。
「私は先日の取引で、何故あのような損失を出したのか、それを聞くために来たのだぞ」
その言葉に、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、ターナーが応えた。
「先日の”仕手”は、彼が仕掛けたんだ・・・」
「何だと・・・!?」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1114