NYラ・ガーディア空港に、深紅のボーイングが着陸した。どの航空会社にも所属していない、個人所有のプライベート・ジェットである。 特別専用レーンに入り、旅客ターミナルビルに停止すると、中から赤いチェックの布を頭に巻き、サウジアラビアの民族衣装であるトーブを着た男が降り立った。
彼の名は、サウジアラビアの豪商、バシャール・サラディン。 かけていたサングラスを取り、サラディンは空を見上げた。 「なんと、寒い国だ・・・」 彼は眉間にしわを寄せ、不服そうに呟いた。 自分が信頼し、天才で常勝無敗といわれた証券ディーラーであるヘイデン・ターナーが、”仕手”にやられたとはいえ、400億ドルという前代未聞の損失を出した。何が起こったのか確かめるために、彼はこのNYに降り立った。
ミッドタウン・マンハッタンにある五つ星ホテル、セントレジスの最上階のペントハウスに入ると、サラディンはヘイデン・ターナーを待った。 彼は、大きく突き出た腹を触りながら、秘書に電話をかけさせ、ほどなくしてルームサービスが入ってきた。 「ご注文の、ポール・ジロー、”ビクター・サイモン”でございます」 そう言うと、そのままウエイターが、クーラーからボトルを取り出し、グラスに酒を注いだ。 サラディンは待ちかねたように、グラスを取り、ビクター・サイモンを口に流し込んだ。イスラム教圏であるサウジアラビアでは、好きな酒も飲むこともままならないが、これは国を出るときの、一つの愉しみでもあった。 「その姿は、厳格なイスラム教信者とは思えませんな」 広い室内に、張りのある声が響く。サラディンが振り返ると、部屋の入り口に、見慣れない男が立っていた。 「お前は・・・何者だ?」 その男の背後から、細身のメガネをかけた男が、顔を覗かせた。 ヘイデン・ターナーである。だが、その前にいる男に、覚えが無かった。 「ミスター・サラディン、彼は・・・」 ターナーが口を開く前に、前にいた男が、それを遮った。 「私は、バリー・タウバーと申します」 「タウバー?」 サラディンは、部屋の入り口を見た。そこには、体格の良い四人の男が、部屋を守っているはずだったが、その姿はどこにもいなかった。 「ターナー、何故この男を連れてきたのだ?」 サラディンが怪訝な表情を浮かべながら、バリーを睨みつける。 「私は先日の取引で、何故あのような損失を出したのか、それを聞くために来たのだぞ」 その言葉に、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、ターナーが応えた。 「先日の”仕手”は、彼が仕掛けたんだ・・・」 「何だと・・・!?」
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