L&Jキャピタル・マネジメントの屋上に上がり、ターナーは外に出るためのドアを開けた。 時間は既に、真夜中を指していたのにも関わらず、摩天楼は美しく輝いていた。 ヘリポートの脇を抜け、端まで来ると、手すりに掴まり、凍りついた真冬の空を見上げた。 「全て、終わった。何もかも・・・」 ターナーは、小さく呟いた。 少し前までは、この輝く摩天楼は、全て自分の為に輝いていると思い込んでいた。何もかもが順調で、自分は”選ばれた人間”だった。 生きていても、苦難の道が待っていることは、明らかだった。多大な借金を背負い、何よりも恐れたのは、”不名誉”だった。 「死んだほうが、マシだ」 ターナーは、手すりを乗り越え、ビルの縁に立った。 階下から、何もかも凍てつかせるような、冷気が来た。下を見ると、道路を走る車が、まるで小さな虫けらのようだった。 ターナーは、息を飲んだ。 だが、飛び降りる決心が、付かない。彼は、恐怖を感じていた。 その時、彼はふと、背後に何かの気配を感じた。 「何だ、怖いのか?」 その声に驚き、ターナーはバランスを崩すが、すぐに手すりにしがみついた。 「な、何だ、アンタ!?」 ターナーの背後に、自分が持っているよりも、高いスーツに身を包んだ、男が立っている。彼は煙草をくわえながら、笑みを浮かべていた。 「お前が、いつ飛び降りるのか、見物してるんだがね。さっさと、飛び降りたらどうなんだ?」 その言葉に、ターナーは憤怒する。 「う、うるさい!言われなくても、飛び降りてやる!」 しかし、下を見た途端に、手と足が震えだした。 「恐怖を感じるということは、お前、本当は死にたくないんだろ?」 男は煙草の煙を吐きながら、手すりに、もたれかけた。そして、ターナーを侮辱する。 「腰抜けめ!」 あまりの怒りに、ターナーは手すりを超え、男に殴りかかろうとする。が、バランスを崩して、足を滑らせた。 「もう、駄目だ」彼は一瞬で、全てを諦めた。 手に衝撃がかかり、ターナーは現実に引き戻される。 目を開けると、遥か下の道路で、車が走っている。自分が落ちずに、止まっていることに気付いた。 ターナーの腕を、背後にいた男が掴んでいたのだった。彼はターナーの身体を引き上げると、息を乱していた彼に、煙草を勧めた。 ターナーが一本掴むと、男はそれに火を点ける。大きく一息吸い込み、ゆっくりと吐いた。それだけで、冷静な頭が戻り始めた。 「ありがとう・・・。助かったよ」 ターナーは小さく呟いた。 「本当は、生きたいんだろ?」 男が、笑みを浮かべる。この男に対する、先ほどまでの怒りが、今はどこかに消えていた。 「でも、もう駄目だ。どうすりゃいいのか、分からないんだ・・・」 「じゃあ、俺の所へ来い」 男の言葉に、ターナーが顔を上げる。 「”俺の所”・・・?」
「お前の命、俺が400億ドルで買ってやる」
男が言った金額に、ターナーの身体が震えた。 「何故、その金額を・・・。アンタ、誰なんだ・・・?」 男は煙草を投げ捨て、その透き通った水色の瞳を光らせた。 「俺はタウバー。バリー・タウバーだ」
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