煙草の灰を、灰皿に落とし、バリーはガーツの眼を見た。 「お前の幼馴染、ジョージ・スピラーンと言ったな。その男は、お前の命が狙われたことに、何か知らないのか?」 バリーは、すぐに口角を上げる。 「奴は、型にハマった事しか出来ない、”能無し”だ。フェッズが、何故俺の命を狙うかなど、突き止められる技量は無い」 そう言ったバリーの眼は、更に冷徹な光を帯び始めた。しかし、ガーツは彼が意に反した事を言っていると、すぐに見抜いていた。 ジョージ・スピラーンはヘイズに殺された妹の、夫であり、目の前にいる男の幼馴染なのだ。いざとなれば、ジョージ・スピラーンはバリーを誘き出す為の、格好の餌となる。 「まあ、いい。どうでも、いいことだ」 ガーツは煙草を、灰皿に押し付け、立ち上がった。 「では、詳細は後で連絡する」 そう言うと、ガーツは足早に店を出た。窓の外を眺め、ガーツの車が出るのを確認する。
バリーは、首からかけていたロザリオをワイシャツの中から取り出し、それを手にした。十字の真中に、緑の翡翠が埋め込まれている、ロザリオだった。 それを握り締めると、カウンターにいたウエイターを呼ぶ。 コーヒーサーバーを手にしたウエイターは、空になったバリーのカップに、コーヒーを注ぐ。腰を屈めたウエイターに、バリーは小さく囁いた。 「奴を、見張ってろ」 ウエイターはバリーの眼を見ると、小さく頷いた。そしてカウンターへ入り、奥のキッチンへと進んだ。 キッチンには、ガンホルダーを肩からかけた、ネクタイの男が三人立っている。その足元には、手足を縛られ、口にテープを貼られたウエイトレスと、料理人が倒れていた。彼らは男たちを、恐怖におののいた眼で見上げていた。 ウエイターは黒の蝶ネクタイを取り、ジャケットを羽織ると、ネクタイの男たちと共に、裏口から出た。 それと入れ替えに、一人の男が中に入った。 男はキッチンを抜け、店の中へ行く。店内には、窓際に座るバリーしかいなかった。彼の向かいに、腰掛けると、ジャケットの胸ポケットから葉巻を取り出し、それをくわえた。 「気に入らんな」 バリーが、窓の外を眺めながら、男に呟いた。 「俺は、力を貸してくれと、言った覚えはない」 男はジッポを取り出し、葉巻に火を点けた。 「イランでのアメリカ大使館人質事件は、お前一人で解決できる問題ではない」 煙を吐きながら、男が応えた。葉巻の甘い、煙が漂う。 「だからと言って、俺は、後継者になる気は無い」 バリーの言葉に、男は笑みを浮かべた。 「構わんさ。今回は、”あの方”が直々に、お前に力を貸してやれと仰られたのだ。ありがたく思うんだな、”クソ坊主”・・・」
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