俯いたガーツの表情を見たバリーは、その口に、不敵な笑みを浮かべた。 「そう、気落ちすることではない。人質奪還の為には、その方法が”セオリー”だ。それに、予算や人員の配分を考慮すると、その”作戦”は妥当だろうな」 ガーツは、バリーが話す内容を、十分に理解していた。彼は、バリーの次の言葉を待った。 「この”作戦”は、俺に任せないか?」 バリーの、この言葉を、ガーツは待っていた。だが、彼は表情を崩さなかった。 「俺に任せてくれたら、ただ”渡す”だけでなく、”それ”を金に換えてやる」 ガーツは、もう一度腕を組んだ。この男に依頼するメリットは、十二分にあった。今のCIAには、この作戦を遂行できる人材が、皆無なのだ。 そして、もしもの時は、完全にこの男を切り捨てれば良い・・・。 「分かった・・・。お前に、任せよう。成功すれば、お前の用件も受け入れる」 「それと、俺の手数料は、売り上げの20%だ」 「値上げしたのか?」 「これだけ、中東が混乱しているんだ。20%は、妥当な線だ」 ガーツは、苦笑を浮かべた。 「分かった。20%を、呑もう」 その答えを聞くと、バリーは満足げな笑みを浮かべ、吸っていた煙草を、灰皿に押し付ける。 「ところで、ヘイズは何をやってるんだ?」 そう言いながら、銀のシガレットケースから、新しい煙草を取り出し、くわえた。 「奴は、”東”に潜っている。気になるのか?」 ガーツの言葉に、バリーは小さく頷いた。 「そういえば、奴はお前の妹を殺したんだったな・・・」 バリーの透き通った水色の眼から、彼の真意を読み取ろうとしたが、冷徹な瞳からは、何も分からなかった。 「復讐したいのか?」 「いや、奴はイカれてるが、使える男だ。アンタが奴を使わないなら、俺が引き抜こうと思ったまでだ・・・」 それを聞いたガーツが、声を上げて笑った。 「お前は、憎しみよりもビジネスが、好きだと言っていたな!」 「復讐するなら、とうに奴を八つ裂きにしている。憎しみよりも、”世界”を相手に、金儲けの方が愉しくてな・・・」 そう言うと、バリーは悪魔のような笑みを浮かべた。 「まさに、”死の商人”か・・・」 だが、ガーツには何かが気に入らなかった。 ムジャヒディンのリーダー、シール・タリブの存在を否定し、FBIに命を狙われた。
バリー・タウバーは、何かを隠している。この男の目的は、一体何なのか? その疑念を、拭い去ることが出来なかった。
「一つ、聞かせてくれ」 ガーツが、口を開いた。 「フェッズ(FBI)に狙われたと言っていたが、確かお前の幼馴染は、フェッズの特別捜査官では無かったのか?」
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