ダニエル・フロスト、この狐目の男、家庭教師というのはあくまで名目であり、実際は二人の監視役だった。バリーの見ていない隙に、文字の読めないアンジェリアを髪の毛を引きずり、痣が表面化しないように身体を蹴っていた。暴力を受けていることに対して、何もバリーに言わなかったアンジェリアは、この男に異様な恐怖を抱いていた。バリーはアンの名を呼びながら彼女の部屋の中へ入った。 部屋のあちこちにバラが飾られている。バリーの視界に彼女はいなかった。 「アン!」 部屋の奥にあるクローゼットの扉を開くと、アンジェリアはそこで蹲って泣いていた。 「アン、もう心配ないよ」 アンジェリアは目に大粒の涙を浮かべながら、バリーに抱きついた。 「あんなヤツ、怖がらなくてもいいんだ」 「バリーもいなくなるんでしょ?」 「どうして?」 「陸軍学校に入るって・・・」 バリーはアンジェリアを問いただすと、母親のミミが言っていたようだった。そして、今朝からマーサの姿が見えないとも。彼は自分のせいでマーサが追い出された事を悟った。このままこの邸に居ては、良くない事が起こる。 「ここから逃げよう」 そう言って立ち上がると、自分の部屋へ行き、鞄に数冊の本を詰め込み、机の引き出しに入れてあったクッキーの缶を開け、貯めてあった20ドルを掴むと、アンジェリアの部屋へ戻った。 アンジェリアはどうしていいか分からず、その場に蹲ったままだった。 バリーは彼女に声をかける間も無く、引き出しにあったアンの服を適当に鞄の中へ押し込んでいった。 「いいかい。今から、マーサに会いに行こう」 「マーサに?」 「その後に、神父様の家に行くんだ」
数分経っても、階下に姿を現さないバリーに気付いたミミは、ダニエル・フロストと共に二人の名前を呼びながら二階へ上がった。 アンジェリアの部屋の外から二人の名前を呼ぶが返事が無い。ミミはドアのノブを回し、ゆっくりと中へ入るが、二人の姿は無かった。かすかな風を感じ窓を見ると、窓が開いている。近寄ると窓からは、一階まで伸びたロープが垂れ下がっていた。
|
|