「おまけに、アメリカが支援してきたパフラヴィーが追い出され、ホメイニが革命が起こした。しかも、奴らはアメリカ大使館を占拠しやがった」 それを聞いたガーツが、もう一度苦笑を浮かべる。 「全くだ・・・。このクソ忙しいときに・・・」 1978年と翌79年、この二つの年は、中東情勢が混乱を極めていた。 78年、レバノン国内に逃げていた、PLOに制裁を加えるため、イスラエルがレバノンに侵攻。 79年1月に、アメリカとイギリスの支援を受け、イラン国民に対して独裁という抑圧を強いてきた、パフラヴィー国王を追い出し、イスラム教シーア派のウラマー(法学者)・ホメイニ師を指導者としてイラン国民が革命を起こしていた。 その上11月4日に、パフラヴィーが亡命したアメリカに対し、イスラム法学校の学生たちが、イランアメリカ大使館を占拠。 アメリカ人外交官を始め、警備の為、駐留していたマリーン(海兵隊)とその家族52人が、人質となった。 「俺は、レバノンとイランにコネがあってな・・・」 バリーは話を続けた。 「そこで、妙な”噂”を聞いたんだ・・・」 そう言うと、バリーはテーブルに肘を着き、ガーツに手招きした。彼もそれに応え、前のめりになる。 バリーは、ガーツの耳元で囁いた。その声は、店内の安っぽいクラシックのBGMにより、かき消された。 「貴様・・・何故、それを・・・!?」 ガーツは、バリーの眼を見た。 「言っただろう、”噂”だとな」 バリーは、ガーツが現在立案していた作戦の、重要な”鍵”を言ったのである。 ガーツは煙草を灰皿に押し付け、新しい煙草を取り出すと、口にくわえ、火も点けないまま腕を組んだ。 「今のラングレー(CIA)には、力が無い。俺が聞いた”噂”が”真実”であれば・・・」 バリーは、ガーツが立案するはずの作戦内容を、寸分違わず言ってのけた。その内容に驚愕し、ガーツはくわえていた煙草を落とす。 「何故、分かったのだ・・・。どこから、情報が漏れた!?」 「漏れていないさ。ある程度の情報を集めれば、簡単に分析出来る。言っておくが、今のCIAには、ここまで分析できるアナライザーはいないだろう」 ガーツは、その言葉に衝撃を受けていた。 バリー・タウバーという男が、優能だということは分かっていたが、同時にカーター大統領によって規模削減を受けていたCIAの、能力が劣っていたことに、衝撃を受けていたのだ。 「確かに、その通りだな・・・」
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