その日、地域担当室・秘密作戦チームのエドナー・ガーツは、新しい作戦のプランを立案していた。しかしタイトルを打ったまま、タイプライターが一向に進まなかった。 この作戦を実行できる、人材が決定的に不足していたのだ。 「カーターめ!」 そう吐き捨て、煙草を吸いながら、右足を神経質に細かく揺らしていた。足を揺らす音が、余計に苛立ちをかきたてる。 ジミー・カーター大統領によるCIA規模削減により、優秀な人材までもが減らされ、予算も不足していた。それにより、CIAとしての情報収集能力が低下したのである。 タイプライターにセットしていた紙を無理やり引き出すと、それを丸めゴミ箱に投げた。吸っていた煙草を灰皿に押し付けたとき、デスクにあった電話が鳴り響く。受話器を取ると、ドアの外にいる秘書からだった。 「タウバー商会のタウバー様です」 「何だと!?」 ガーツはその名前を聞き、内線を、盗聴を専門にしている担当官に切り替え、逆探知を依頼すると、外線のボタンを押した。 「タウバーか!?」 「久しぶりだな!」 受話器の向こうから、聞き覚えのある声が応えた。彼は三年前に、何者かに仕掛けられた爆弾によって、事務所と共に爆死した筈の男だった。 「お前が、生きていたとは!」 「色々あってな。大変だったんだぞ」 「今、どこにいるんだ?」 「さあな。どうせアンタの事だ、逆探知してるんだろ?時間は待ってやるから、当ててみろよ」 バリーの応えに、ガーツはクソと呟くと、更に苛立ちを覚えた。もう一度内線を、盗聴専門の担当官に切り替え、バリーの居場所を確認した。 「ヤツは、このヴァージニア州ラングレーにいるぞ!」 「何!?」 バリーの居場所は、このCIAヘッドクウォーター(本部)から、たった10マイル離れたダイナーの電話から、かかっているとの事だった。ガーツは、もう一度外線に切り替える。 「俺の居場所が、分かったようだな」 バリーが言った。その言葉に、ガーツは先ほどまで感じていた苛立ちが、どこかへ消え去ってしまった。 「相変わらず、大胆なヤツだ」 そう言いながら、ガーツは煙草をくわえ、笑みを浮かべた。 「ここまで来たということは、俺に会うのが目的だな」 「そう言うことだ。アンタに、折り入って頼みがある」 ガーツはその言葉に、眉をひそめる。バリー・タウバーという男から、“頼み”という言葉が出るのは、初めてだったからだ。 「頼み?」 「電話では話せない。ここで待ってるから、少し会って話せないか?」 ガーツは腕時計を見た。 「分かった。今からここを出るから、待ってろ」
|
|