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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第217回   1979年12月 アメリカ・ラングレー”再始動”
その日、地域担当室・秘密作戦チームのエドナー・ガーツは、新しい作戦のプランを立案していた。しかしタイトルを打ったまま、タイプライターが一向に進まなかった。
この作戦を実行できる、人材が決定的に不足していたのだ。
「カーターめ!」
そう吐き捨て、煙草を吸いながら、右足を神経質に細かく揺らしていた。足を揺らす音が、余計に苛立ちをかきたてる。
ジミー・カーター大統領によるCIA規模削減により、優秀な人材までもが減らされ、予算も不足していた。それにより、CIAとしての情報収集能力が低下したのである。
タイプライターにセットしていた紙を無理やり引き出すと、それを丸めゴミ箱に投げた。吸っていた煙草を灰皿に押し付けたとき、デスクにあった電話が鳴り響く。受話器を取ると、ドアの外にいる秘書からだった。
「タウバー商会のタウバー様です」
「何だと!?」
ガーツはその名前を聞き、内線を、盗聴を専門にしている担当官に切り替え、逆探知を依頼すると、外線のボタンを押した。
「タウバーか!?」
「久しぶりだな!」
受話器の向こうから、聞き覚えのある声が応えた。彼は三年前に、何者かに仕掛けられた爆弾によって、事務所と共に爆死した筈の男だった。
「お前が、生きていたとは!」
「色々あってな。大変だったんだぞ」
「今、どこにいるんだ?」
「さあな。どうせアンタの事だ、逆探知してるんだろ?時間は待ってやるから、当ててみろよ」
バリーの応えに、ガーツはクソと呟くと、更に苛立ちを覚えた。もう一度内線を、盗聴専門の担当官に切り替え、バリーの居場所を確認した。
「ヤツは、このヴァージニア州ラングレーにいるぞ!」
「何!?」
バリーの居場所は、このCIAヘッドクウォーター(本部)から、たった10マイル離れたダイナーの電話から、かかっているとの事だった。ガーツは、もう一度外線に切り替える。
「俺の居場所が、分かったようだな」
バリーが言った。その言葉に、ガーツは先ほどまで感じていた苛立ちが、どこかへ消え去ってしまった。
「相変わらず、大胆なヤツだ」
そう言いながら、ガーツは煙草をくわえ、笑みを浮かべた。
「ここまで来たということは、俺に会うのが目的だな」
「そう言うことだ。アンタに、折り入って頼みがある」
ガーツはその言葉に、眉をひそめる。バリー・タウバーという男から、“頼み”という言葉が出るのは、初めてだったからだ。
「頼み?」
「電話では話せない。ここで待ってるから、少し会って話せないか?」
ガーツは腕時計を見た。
「分かった。今からここを出るから、待ってろ」


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