首都・マナグア郊外に設営された赤十字キャンプには、ソモサの政府軍に家族を無残に殺され、家を追われた、数多くの民衆が集まり、難民キャンプ地と化していた。 赤十字キャンプの周りに設営された様々なテントが、朝日に照らされ、その姿を浮かび上がらせる。その数は、日に日に膨れ上がっているという。
バリーを乗せた二台のジープが、赤十字キャンプの前に停まった。中から、バリーとサラが降り立つ。 二人は、互いに見詰め合った。 「また、会える?」 そう言いながら、サラはバリーの手を握った。 「お前が、俺を必要とするとき、いつでも呼んでくれ」 バリーは、その手を握り返す。 「何があっても、お前に会いに来る」 サラは、バリーの頬を確かめるように、撫でた。 「いい、男ね・・・」 「いい、女だ・・・」 そう言うと、二人は口づけを交わした。 唇が離れ、サラはバリーの透き通った水色の瞳を、名残惜しそうに見詰めながら、後ずさりをした。 その時、サラの背後で、彼女を呼ぶ幼い声がする。 振り返ると、幼い少年がサラに走り寄った。 「ママ!」 「カイル!」 サラは膝を屈め、その少年・息子のカイルを抱き寄せた。 「ママに、顔を見せてちょうだい!」 カイルの柔らかい頬を撫で、彼に再会できたことを確認する。 「ママ、泣いてるの?」 「当たり前よ!貴方と、こうしてまた、無事に会えたんだもの!」 そう言うと、サラはカイルに抱きついた。 「ねえ、あのおじさん、誰?」 カイルの言葉に、サラは我に返った。彼女は涙を拭うと、後ろを振り返る。 「バリー、本当は・・・!」 そこにいたはずの、バリーの姿が、忽然と消えていた。サラは立ち上がり、その姿を目で追うが、彼はどこにもいなかった。 「ママ、どうしたの?」 その声に気付き、サラはまた膝を屈め、カイルの顔を見詰めた。 「さっきの、おじさんは誰?」 サラはカイルの頬を愛しげに撫でながら、優しく応えた。 「貴方に、彼を紹介できる日が、来ると思うわ・・・」 カイルの、透き通った水色の瞳を、見詰めながら。 「いつか、きっと・・・」
「彼女と、別れて良かったのか?」 ジープを運転するクルーエルが、隣で煙草を吸うバリーに、話しかけた。 「サラと俺は、同じ道を歩むことは出来ない」 煙を大きく吸い込むと、窓の外を眺めながら、ゆっくりと吐いた。 「だが、行き着く先は、同じだ。だから、彼女が俺を必要としたときだけ、会いに行けばいい・・・」 バリーの言葉に、クルーエルが笑った。 「やっぱり、不器用な男だな!」
1978年9月、ソモサの政府軍はFSNL・サンディニスタ民族解放戦線に占領されていたエステリ市を奪回するため、赤十字の関係者も含む、エステリ市民3000人を無差別に殺害した。 バリーはこの時の詳細を、NYタイムズのクローディア・シーカに情報を提供する。 この救出作戦が決行された翌週、MSF・国境なき医師団のサラ・マクミランや、フランツ・ゲートニクと救出された二人の看護師、ベルドゥーラ村の生存者たちのインタビュー記事が、NYタイムズの一面を飾った。 そのタイトルは「エステリ大虐殺」。 これにより、アメリカ合衆国が支援してきたソモサ政権が、ニカラグア国民に対して行ってきた蛮行が明らかとなり、アメリカ国民はもとより、国際世論はサンディニスタ民族解放戦線に、好意的となっていった。
この闘争は、圧制を受け、沢山の血が流れたニカラグア国民の勝利へと、向かい始めたのだった。
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