ジープのヘッドライトが、バリーと村長たちを映し出した。バリーは目を細め、ジープのそばで立っている、兵士たちの数を確認する。五人が左右に、散らばっていた。 「投降しろ!」 その声に、バリーは一瞬で全てを悟った。兵士は、英語で言ったのだ。それは、サラと保護した少年が捕まったことを意味した。それでも、バリーは構えたM16を下ろさずに、彼らの様子を窺った。 「貴様が、アメリカ人なのは分かっている!」 兵士が英語でそう言うと、ジープの裏手から少年を抱いたサラが、兵士に銃口を向けられたまま姿を現した。 「バリー、ごめんなさい!」 サラが叫ぶ。 「この女が殺されたくなければ、投降するんだ!」 バリーの感覚が、異様に研ぎ澄まされる。彼は、目の前に立ちはだかる兵士たちの息づかい、サラと少年が感じている鼓動、背後にいる村長の額から流れ落ちる汗。全てが、手に取るように分かる。その中で、敵の遥か後方にいる、何かの“気配”を感じ取った。 「分かった。投降するから、その女と村長たちは、傷付けないと約束するか?」 バリーが言った。 「約束しよう!」 兵士の一人が応える。無論、そんな約束を守るような連中でないことは、分かっていた。 バリーは、少年を抱きかかえたサラを見た。 怯えているようだが、彼女の瞳は、まだ光り輝いている。 彼女は、まだ諦めていなかった。それは“死”を追い払い、“生”に食い付こうとする強さ。アンジェリアには無かった、人間の“生”に対する強さだった。 バリーはサラの姿に、幼い頃に憧れた、ロレーナ・スピラーンの姿を重ねた。 「サラ!」 その声に、サラが顔を上げる。 「もし、戦争を無くすことが出来る人間がいるとしたら、それは俺のような、“男”ではなく・・・」 バリーは、構えたM16から、左手を放す。その口元に、優しい笑みをたたえながら。 「バリー、駄目よ・・・!」 「お前のような、“女”なのかもしれない・・・」 バリーの右手から、M16が放れ落ちる。 その瞬間、感覚が研ぎ澄まされたバリーの眼に、全ての世界が止まって見えた。 目の前の兵士たちは、自分に向かって向けていた銃の引き金を、引こうとしている。バリーはベルトに付けたナイフを取り、サラに銃口を向けていた兵士に投げた。 一斉に、数発の銃声が轟く。
その銃声が鳴り止んだあと、サラは閉じてしまった目を、恐る恐る開けた。目の前にいるバリー、そばで立っている兵士たち。 全てが、止まっていた。 突然、自分に銃を向けていた兵士が、倒れる。その額には、バリーが放ったナイフが刺さっていた。 それを皮切りに、全ての兵士が、意志を持たない巨木のように倒れた。 サラは、何が起こったのか理解できないでいた。彼女はバリーを見る。彼は、ナイフを投げた体勢のまま、ぴくりとも動かなかった。 「バリー!」 サラは少年を抱きかかえたまま、バリーに駆け寄ると、彼に抱きついた。その肌の感触に、バリーの集中力が解ける。彼は、彼女の腰に手をまわすと、二人をそっと抱き寄せた。 「サラ・・・」 二人が口づけを交わそうとした瞬間、背後の“気配”に気付く。 「おや、お邪魔だったかな?」 二人が振り返ると、そこには両手を広げ、降参の姿勢をとっていたクルーエルが立っていた。 「いい、タイミングだ」 バリーが応える。クルーエルのあとから、ホア、パワーズ、マッカビーが姿を現した。 「まさか・・・。彼らが来たのが、分かってて・・・」 サラは、眼を大きく見開いた。 「お前が、キャンプまで連れて行けと、言ったんだ。ここで俺が死ぬわけには、いかないだろう?」 そう言うと、バリーは屈託のない笑みを浮かべた。
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