ライトに照らし出された、女の顔を見た。 「サラ・・・」 バリーが、小さく呟いた。かつてベトナム・サイゴンで、アメリカ軍の軍医をしていた女だった。 「二人は、知り合いだったのか?」 ゲートニクが、サラに言った。 「ベトナムの時の、私の患者だったのよ」 そう言うと、サラはまた屈んで、患者の治療に当たった。それを、呆然と見ていたバリーの肩を、クルーエルが掴む。 「昔の“女”か?」 その言葉に、バリーはクルーエルを睨んだ。 「早急に、ここを離脱する。準備しろ!」 クルーエルは何も言わず、口元に笑みを浮かべながら、何もかも見透かしたような眼で、小さく敬礼をする。 「生存者は、これだけか?」 バリーは、ゲートニクに言った。 「私とサラ、二人の看護師と四人の患者だけだ。あとは、見ての通りさ」 煤だらけの顔で、ゲートニクが応えた。 「ここから4マイル先の丘陵まで行けば、そこで我々のヘリがピックアップする。そこまで、俺のチームがエスコートする」 「分かった」 ゲートニクは、バリーの“チーム”である面子を見た。たった5人で、救出に来たということは、彼らが“精鋭”であるということを、よく理解していた。 「サラ、撤収する。準備してくれ!」 ゲートニクの声に、サラが応える。 その声に反応して、バリーは、サラを見た。彼女も、バリーを見ていた。二人は眼が合った瞬間、何事も無かったかのように、己の責務を果たし始めた。
赤十字病院を出るときは、ここに到着してから、既に1時間が経過していた。 斥候をホアが務め、先頭にクルーエル、サイドにパワーズ、マッカビーは足の不自由な患者を背負い、最後尾にバリーが就いた。 バリーは、サラの後ろ姿に気を取られながらも、警戒を怠らなかった。民間人を連れている以上、いつも以上に危険が増していたからだ。 破壊しつくされた街を通り、道端に転がっている、老人や女、子供の死体のそばを通りながら、一行はPZ(ピックアップポイント)の丘陵を目指し、山岳地帯に入った。バリーのチームが得意とする、“ジャングル”だ。斥候のホアは、最も本領を発揮し、バリーにも劣らない動物的“勘”を駆使し、索敵に務めた。 途中、ソモサの政府軍である地上部隊と二度、接触しかけたが、ベトナムで偵察任務を得意としていた彼らは、その気配を完全に消し、連れていた救助人も、それに習った。 PZ(ピックアップポイント)に到着したのは、夜が明け始めた頃だった。丘陵の開けた場所に、ヘリが来る予定だった。 「時間通りだ」 バリーが、ゲートニクに囁いた。 ここからが、最も緊張を強いられる場面だった。ヘリが来る以上、敵に見つかる可能性は非常に高かった。彼らはホアを先頭に、ヘリを待った。そして、時間通りにピックアップ用のヘリが到着する。 「行くぞ!」 バリーの声を合図に、患者を背負っていたマッカビーが走る。すばやく中で患者を下ろすと、次々に来る救助人の、介助に回った。 サラがヘリへ走る時、バリーの視線が、彼女へ向いた。 「助かった。感謝する」 それを遮るように、ゲートニクがバリーに握手を求めた。バリーはそれに応えると、彼の背中を叩いた。 「まだ、安心はするな。行け!」 マッカビー、ホア、クルーエルが乗り込み、パワーズが乗り込もうとした瞬間、バリーの背後で声が聞こえた。バリーが振り返り、それが政府軍であると一瞬で判断した時、彼の左足に、弾丸が貫通した。 「バリー!」
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