そこに立っていたのは、武器商人のバリー・タウバーだった。彼は何も言わず、冷ややかな眼でカルロスを見ている。その異様な殺気とも言える迫力と、自ら犯した罪を感じていたのか、バリーの瞳に恐れを抱き、涙を流した。 「お、俺は・・・」 カルロスの言葉を遮るように、バリーは銃口を、その額に向けた。 「これが、お前の“正義”か・・・」 低い声で、バリーが言った。カルロスは、それに対し、恐怖のあまり、何も言えなかった。 「待て!」 その時、背後から、それを制止する声がした。 バリーの後ろから、FSLNのホルヘ・パストラと、アルトゥーロ・ティヘリノが息を切らせながら、走ってきた。 「待ってくれ!」 アルトゥーロが言った。バリーは何も言わず、ピストルを彼に手渡した。アルトゥーロとホルヘ、カルロスは、その“意味”をよく理解した。“裏切り者には、死あるのみ”である。その最後の決断を、バリーはカルロスの“仲間”であるアルトゥーロに委ねたのだ。 アルトゥーロは、カルロスの顔を見た。彼は、恐怖におののいている。 「出来ないなら、俺が殺ってもいい。請け負うぞ」 バリーが囁いた。 「お前なら、こんな時、どうするんだ?」 アルトゥーロが、バリーに言う。 「一度、仲間を裏切った奴は、二度、三度裏切る。一人の命を見逃したせいで、何十人、何百人の仲間の命を、失うこともある」 「だから、殺すのか?」 バリーは、小さく頷いた。 「それが、俺の“正義”だ」 アルトゥーロは、バリーを睨み付けた。お前が殺すくらいなら、俺が殺ると、彼に眼で訴えた。 カルロスは、目を閉じ、頭を抱えた。何も言わず、ただ恐怖に震えた。その姿を見たアルトゥーロは、握っていたピストルを下ろす。 「行け・・・」 アルトゥーロが、小さく呟いた。その声に反応し、カルロスが目を開ける。 「行け!」 まだ事情が把握できないカルロスが、アルトゥーロの顔を覗き込んだ。その、真意を確かめるために。 「行けと言ったら、行くんだ!」 ふらつきながら立ち上がったカルロスは、後ろを振り返りもせず、一目散にその場を逃げ出した。 「これで、いいのか?」 バリーが、アルトゥーロの肩を掴んだ。彼は振り返りもせず、小さく頷く。 「あんたは、やはり“革命家”だな」 バリーの侮蔑とも、褒め言葉とも言える言葉に、アルトゥーロは彼を睨み付けた。 「おかしいか?」 「いや・・・」 バリーは煙草をくわえ、笑みを浮かべた。 「カルロスには、カルロスの“真実”がある。彼には、“未来”があるだろうが、人間の“性”は、未来永劫変わることは無い・・・」 そう言うと、バリーはアルトゥーロの、手に握っていたピストルを取った。 「それだけだ・・・」 そう言うと、バリーはその場を立ち去った。アルトゥーロの肩を、ホルヘが掴む。
カルロス・ペドロサは、“サンディニスタ革命”のあと、ソモサ政権の残存兵と、FSLNを離反した者たちから成る“コントラ”に参加する。サンディニスタ民族解放戦線に敵対する勢力となり、かつての仲間を、何百人も撃ち殺していった。彼は大金を手にするが、1995年5月に、高級車に乗っていたところを、野盗に銃撃され、即死する。
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