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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第203回   203
パラシオ・ナシオナル(国家殿堂)に向かう人々の波に入り、クラウディアはバリーの後に着いた。
「貴方、本当は“タダのビジネスマン”なんかじゃないんでしょ?タダのビジネスマンにしては、事情通だわ」
「“タダのビジネスマン”さ。“マラゴジペ”の買い付けに来たのに、革命なんか起こってしまっては、手に入らなくなる。そうなっては、俺の会社は大損だ」
“マラゴジペ”は、ニカラグア産の最高級コーヒー豆である。
「だから、“何か”を探ってる訳なのね」
クラウディアは、バリーの顔を覗き込んだ。
「まぁ、そんなところだな」
そう言うと、バリーは笑みを浮かべた。彼は、ふと何かを思いついたように、突然その場で立ち止まると、クラウディアを呼び止めた。
「お前に、会わせたい男がいる。着いてくるか?」
その言葉に、クラウディアは瞳を輝かせた。
「是非!」

バリーはクラウディアを連れ、サンディニスタ民族解放戦線・FSLNのマナグア支部となる家屋へ、いざなった。そこで、その支部のコマンダンテ(司令官)である、ホルヘ・パストラに紹介する。
「この女は、大丈夫なのか?」
ホルヘがバリーに言った。
「彼女の記事を読んだが、NYタイムズの記者にしては、珍しく左寄りだ。彼女を味方に付けられれば、アメリカがニカラグアに内政干渉することを嫌悪している、集団や政治家に訴えかけられる」
バリーは笑みを浮かべながら、煙草をくわえた。
「うまくいくかな?」
「今の大統領は、幸いにもジミー・カーターだ。誰もやらなかった、CIAの首を締め付けている男だぞ。アメリカ国内からは、諜報機関を弱体化させた、愚かな男と評判は低いが、我々からすれば、“いい男”だ。彼がトップに就いている限り、風は、こちらに向いている」
バリーがそう言うと、ホルヘは少し考え、クラウディアに握手を求めた。
「そういう事なら、よろしく頼む」
クラウディアは、それに応えた。
「こちらこそ。アイル・ドゥ・マイ・ベスト(最善を尽くすわ)」
バリーは、もう一人の男を紹介した。男の名はアルトゥーロ・ティヘリノ。彼は怪訝な表情を浮かべながら、クラウディアの顔を見た。
「アメリカ人の女は、信用できない」
「俺も、国籍はアメリカだ。今は、アメリカに住んでいないが」
バリーが言った。アルトゥーロが、その言葉で彼を睨んだ。
「そう、睨むなよ。疑うのは分かるが、多分これが、“最善”なんだ」
彼は、どこか納得がいかないようであったが、それ以上は、何も言わなかった。バリーの言う“最善”を、理解したからである。
「ところで、“内通者”は、“彼”だったか・・・」
ホルヘがバリーに言った。バリーは、それに小さく頷き、ホルヘに応えた。アルトゥーロは、落胆の色を浮かべる。
「“内通者”は、やはりカルロスだった・・・」


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