パラシオ・ナシオナル(国家殿堂)に向かう人々の波に入り、クラウディアはバリーの後に着いた。 「貴方、本当は“タダのビジネスマン”なんかじゃないんでしょ?タダのビジネスマンにしては、事情通だわ」 「“タダのビジネスマン”さ。“マラゴジペ”の買い付けに来たのに、革命なんか起こってしまっては、手に入らなくなる。そうなっては、俺の会社は大損だ」 “マラゴジペ”は、ニカラグア産の最高級コーヒー豆である。 「だから、“何か”を探ってる訳なのね」 クラウディアは、バリーの顔を覗き込んだ。 「まぁ、そんなところだな」 そう言うと、バリーは笑みを浮かべた。彼は、ふと何かを思いついたように、突然その場で立ち止まると、クラウディアを呼び止めた。 「お前に、会わせたい男がいる。着いてくるか?」 その言葉に、クラウディアは瞳を輝かせた。 「是非!」
バリーはクラウディアを連れ、サンディニスタ民族解放戦線・FSLNのマナグア支部となる家屋へ、いざなった。そこで、その支部のコマンダンテ(司令官)である、ホルヘ・パストラに紹介する。 「この女は、大丈夫なのか?」 ホルヘがバリーに言った。 「彼女の記事を読んだが、NYタイムズの記者にしては、珍しく左寄りだ。彼女を味方に付けられれば、アメリカがニカラグアに内政干渉することを嫌悪している、集団や政治家に訴えかけられる」 バリーは笑みを浮かべながら、煙草をくわえた。 「うまくいくかな?」 「今の大統領は、幸いにもジミー・カーターだ。誰もやらなかった、CIAの首を締め付けている男だぞ。アメリカ国内からは、諜報機関を弱体化させた、愚かな男と評判は低いが、我々からすれば、“いい男”だ。彼がトップに就いている限り、風は、こちらに向いている」 バリーがそう言うと、ホルヘは少し考え、クラウディアに握手を求めた。 「そういう事なら、よろしく頼む」 クラウディアは、それに応えた。 「こちらこそ。アイル・ドゥ・マイ・ベスト(最善を尽くすわ)」 バリーは、もう一人の男を紹介した。男の名はアルトゥーロ・ティヘリノ。彼は怪訝な表情を浮かべながら、クラウディアの顔を見た。 「アメリカ人の女は、信用できない」 「俺も、国籍はアメリカだ。今は、アメリカに住んでいないが」 バリーが言った。アルトゥーロが、その言葉で彼を睨んだ。 「そう、睨むなよ。疑うのは分かるが、多分これが、“最善”なんだ」 彼は、どこか納得がいかないようであったが、それ以上は、何も言わなかった。バリーの言う“最善”を、理解したからである。 「ところで、“内通者”は、“彼”だったか・・・」 ホルヘがバリーに言った。バリーは、それに小さく頷き、ホルヘに応えた。アルトゥーロは、落胆の色を浮かべる。 「“内通者”は、やはりカルロスだった・・・」
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