バリーが、笑みを浮かべながら言った。 「争っている場合ではない」 息を切らしていたホルへ・パストラが、そこにいたメンバーに向かっていった。 ホルへ・パストラは、サンディニスタ民族解放戦線の司令官(コマンダンテ)の一人だった。 「モニンボの住民が、武装蜂起した」 その言葉を聞いたバリーや、FSLNのメンバーが言葉を詰まらせた。 ホルへ・パストラは、まだ武装蜂起をする時期ではないと、話していたからである。 しかし今回は、住民による自然発生的な武装蜂起だった。それによって、国家警備隊が一斉に、住民に圧力をかけ始めたのだ。 「カミロを、助けに行く」 バリーがホルヘに言った。 「いや、これは我々の戦いだ。住民たちの為にも、我々が戦わなくては、ならない。君たちは、部外者だ」 バリーは、ホルヘの眼を見た。彼は、数々の戦場を生き抜いてきた老練な兵士というよりも、知性に溢れた革命家の眼をしている。 「分かった」 バリーが応えた。彼はトラックを降り、鍵をカルロスに手渡した。 「死ぬなよ」 バリーがカルロスを見た。彼は、瞳を輝かせて、小さく頷いた。そのトラックに、アルトゥーロが乗り込む。バリーを睨みつけながら、暴動が起こった地区へ向かった。 ホルヘは、タウバー商会に金は振り込んだことを告げ、バリーが運んできた銃を手にすると、他のメンバーと共に残りのトラックへ乗り込む直前、バリーに耳打ちした。 「タウバー、我々の中に、“内通者”がいる」 「何故、そう思う?」 「国家警備隊は、我々のアジトにまっすぐに入ってきた。以前も、“密告”によってトマスとフォンセカが捕まったのだ。今回も、“内通”によってカミロが捕まった。我々にしか知り得ない情報を、奴らは掴んでいた」 それだけを言うと、彼はトラックの荷台に乗り込み、先に出たトラックに続いた。 「どうするんだ?」 隣に立っていたクルーエルが言った。バリーは、騒然とし始めた、モニンボ居住区・マサヤの町を見る。あちらこちらで、爆発による煙が上がっていた。 三台目のトラックを運転していた、パワーズの顔と、クルーエルを見た。 「撤退する。長居すると、巻き込まれるぞ」
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