バリーは、その言葉を聞くと、すぐさまトラックの荷台に入り、ピストル二丁と弾丸をバックパックに入れた。それを見たクルーエルも、同じような準備に入る。 「何をしているんだ?」 アルトゥーロが、二人に問いかけた。 「助けに行く」 バリーが応える。 「僕も、行きます!」 カルロスが、真剣な眼差しでバリーに訴え出た。クルーエルは柔らかな微笑を浮かべながら、彼の肩を掴んだ。 「坊主、お前が来ると、足手まといだ」 「でも・・・」 バリーが、誰にも見せたことがないような、人懐っこい笑みを浮かべながら、カルロスに言った。 「俺たちは、“クライアント”を助けるんだ。依頼主が死んだら、金が入らない。そうなりゃ、俺たちは大損だからな」 「そう言うことだ。これは、“戦争屋”のプロに任せろ」 クルーエルが、そう言って、トラックの荷台から降りようとしたとき、その背後でトリガーを引く音が鳴った。 バリーとクルーエル、カルロスを含むFSLNの若者が、背後を振り返った。 そこに、AK47を構えたアルトゥーロが、バリーに銃口を向けている。 「何のマネだ?」 バリーが彼を睨みながら、言った。 「グアルディア・ナシオナル(国家警備隊)に、我々を売ったな!」 バリーを始め、その場にいる誰もが、アルトゥーロの言葉に面食らっていた。 「お前が、奴らを連れてきたんだ!この、スパイめ!」 バリーは、その言葉に“違和感”を感じた。若者たちは、皆その言葉に流され、彼に疑いの瞳を向ける。 カルロスを除いては。 「何も言わないところを見ると、真実のようだな」 バリーは、沈黙を守った。これ以上、アルトゥーロに弁明しても、恐らく待つのは“死”のみ。 「ハメられた」バリーは咄嗟に、そう思った。 手にしていたナイフを掴む。確実に、アルトゥーロの額に向けて投げる準備は出来ていた。射程圏内だ。あとは、彼との意識を“合わせる”。彼が、トリガーを引く“気”を待つだけだった。バリーの耳から、“音”が消えていく。その“無音”の世界で、どこからか聞き覚えのある声が聞こえたとき、全てがスローモーションに見えた。 「二人とも、待て!」 アルトゥーロが掛けていた指が、引き金を引く。バリーは、それを全て見切っていた。彼は円を描くように身体を回転させ、弾丸を避ける。その動きに、アルトゥーロは着いてこれない。気付いたとき、彼はトラックの床に叩き伏されていた。 「まぁ、落ち着け」 バリーが言った。彼は、“待て”という声に反応し、アルトゥーロを殺さなかった。 カルロスたち若者は、その体術が理解できなかった。 バリーは気配を感じ、顔を上げる。そこには、タウバー商会に“食品”の依頼をしたクライアント、ホルヘ・パストラが立っていた。 「久しぶりだな、ホルヘ」
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