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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第199回   199
バリーは、その言葉を聞くと、すぐさまトラックの荷台に入り、ピストル二丁と弾丸をバックパックに入れた。それを見たクルーエルも、同じような準備に入る。
「何をしているんだ?」
アルトゥーロが、二人に問いかけた。
「助けに行く」
バリーが応える。
「僕も、行きます!」
カルロスが、真剣な眼差しでバリーに訴え出た。クルーエルは柔らかな微笑を浮かべながら、彼の肩を掴んだ。
「坊主、お前が来ると、足手まといだ」
「でも・・・」
バリーが、誰にも見せたことがないような、人懐っこい笑みを浮かべながら、カルロスに言った。
「俺たちは、“クライアント”を助けるんだ。依頼主が死んだら、金が入らない。そうなりゃ、俺たちは大損だからな」
「そう言うことだ。これは、“戦争屋”のプロに任せろ」
クルーエルが、そう言って、トラックの荷台から降りようとしたとき、その背後でトリガーを引く音が鳴った。
バリーとクルーエル、カルロスを含むFSLNの若者が、背後を振り返った。
そこに、AK47を構えたアルトゥーロが、バリーに銃口を向けている。
「何のマネだ?」
バリーが彼を睨みながら、言った。
「グアルディア・ナシオナル(国家警備隊)に、我々を売ったな!」
バリーを始め、その場にいる誰もが、アルトゥーロの言葉に面食らっていた。
「お前が、奴らを連れてきたんだ!この、スパイめ!」
バリーは、その言葉に“違和感”を感じた。若者たちは、皆その言葉に流され、彼に疑いの瞳を向ける。
カルロスを除いては。
「何も言わないところを見ると、真実のようだな」
バリーは、沈黙を守った。これ以上、アルトゥーロに弁明しても、恐らく待つのは“死”のみ。
「ハメられた」バリーは咄嗟に、そう思った。
手にしていたナイフを掴む。確実に、アルトゥーロの額に向けて投げる準備は出来ていた。射程圏内だ。あとは、彼との意識を“合わせる”。彼が、トリガーを引く“気”を待つだけだった。バリーの耳から、“音”が消えていく。その“無音”の世界で、どこからか聞き覚えのある声が聞こえたとき、全てがスローモーションに見えた。
「二人とも、待て!」
アルトゥーロが掛けていた指が、引き金を引く。バリーは、それを全て見切っていた。彼は円を描くように身体を回転させ、弾丸を避ける。その動きに、アルトゥーロは着いてこれない。気付いたとき、彼はトラックの床に叩き伏されていた。
「まぁ、落ち着け」
バリーが言った。彼は、“待て”という声に反応し、アルトゥーロを殺さなかった。
カルロスたち若者は、その体術が理解できなかった。
バリーは気配を感じ、顔を上げる。そこには、タウバー商会に“食品”の依頼をしたクライアント、ホルヘ・パストラが立っていた。
「久しぶりだな、ホルヘ」


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