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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第198回   198
群集を離れ、カルロスの先導で、バリーは街の裏通りに入った。ある家屋のドアを開け、辺りを警戒しながら中に入る。
真昼間にもかかわらず、薄暗く、埃の舞っていた部屋の中を通り抜け、奥のドアをカルロスがノックする。ドアの向こうから「自由か(リベルター)」と、問いかけられた。カルロスはスペイン語で、「死か(オ・ムエルテ)」とドア越しに応えた。
その合言葉で、ドアが開く。
狭い部屋の中に入ると、カルロスを含む、六人の若者と、初老の男が二人立っていた。真正面に立っていた筋骨逞しい男は、カミロ・オルテガと名乗った。サンディニスタ民族解放戦線の指導者、ダニエル・オルテガの、三兄弟の末弟である。
その隣に立っていたのは、アルトゥーロ・ティヘリノ。黒々とした立派な髭を生やした、FSLNの幹部だった。
「君のことは、トマスから聞いている」
カミロがバリーに握手を求めた。バリーは、それに応える。
「彼は、来ていないのか?」
「彼は先ほど、広場の様子を見に行った。少しすれば、戻るだろう」
その後で、アルトゥーロ・ティヘリノが笑みを浮かべながら、バリーに握手を求める。
「君の噂は聞いている。“反武装政府勢力”に味方する、“英雄”だな」
バリーは、アルトゥーロの眼を見た。
「英雄?何の話だ?」
「謙遜するな。アフガニスタンで、反武装政府勢力“ムジャヒディン”に力を貸していたそうじゃないか」
「力を貸した?俺は、そんなことをした覚えは無い」
バリーは、今回のニカラグア訪問で、誰にもアフガニスタンの話は漏らしていなかった。タウバー商会で、ニカラグアの窓口は、バリー以外にはいない。他に、それを知っているとすれば・・・。
「まぁ、何を言おうが構わんさ。君は、我々の救世主だ」
そう言うと、アルトゥーロは、バリーの肩を叩いた。
「アルトゥーロの言う通りだ。我々に、武器を売ってくれるセールスマンは、君しかいなかったからな」
カミロが、満足げな笑みを浮かべながら言った。今回の暴動に際して、FSLNに武器を売るセールスマンはいなかった。皆、グアルディア・ナシオナル(国家警備隊)、強いて言えば、その背後に潜むアメリカを恐れてのことだった。
「武器商人に、救世主も何もない。俺は、“戦争”で金を儲けたいだけだ」
バリーは、かけていたサングラスを取った。その透き通った水色の瞳で、アルトゥーロを睨みつける。アルトゥーロは、その冷酷な眼差しに、息を飲んだ。
「“食品”は、要望通り用意した。俺の仲間が、居住区の外れで、待っている」
バリーの言葉に、カミロが頷いた。
「助かる」
カミロは、部屋にいた若者たちに何かを指示した。
「この子たちを、連れて行ってくれ。武器を、彼らに取りに行かせる」
「私も、着いて行こう。本当に要望通りなのか、確認せねば、なるまい」
アルトゥーロが、それに追随する。バリーはその言葉に頷くと、カミロを残し、彼らと共に部屋を出た。

居住区の外れに、大型のトラック三台が停まっていた。
バリーの姿を見たクルーエルが、運転席から出てくる。彼は、トラックのホロを開けた。
「確認してくれ」
バリーは、アルトゥーロに言う。彼は、トラックの荷台に足をかけた。
その時、一人の若者が大声をあげながら、こちらに向かってくる。
「何事だ?」
バリーが、カルロスに問う。彼は、青ざめた表情でバリーに応えた。
「カミロが、国家警備隊に逮捕された!」


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