バリーにその訃報が届いたのは、ケイマン諸島へ戻った一ヵ月後のことだった。 「シール・タリブが死んだ」 クルーエルが、小さく呟いた。 カイバル峠で、ムジャヒディンの軍事訓練を請け負っていた、ブルース・マッカビーからの報告だった。 タリブは峠の頂から、足を滑らせて死んだとのことだった。仲間たちは、皆事故として扱っているらしい。 「私は、近いうちに死ぬだろう」 バリーは、タリブの言葉を思い出していた。 シール・タリブは死んだ。恐らく、仲間に殺されたのだろう。如何なる理由があるにせよ、もうムジャヒディン、アフガニスタンに尽力する理由は、無くなったのだ。 「デイビッド、マッカビーに連絡しろ。“今すぐ撤収しろ”とな」 バリーがそう言うと、クルーエルはどこか納得しない表情を浮かべながら、首を立てに振った。
65年に創設されたアフガニスタン人民民主党が、ムハンマド・タラキとハフィズラ・アミンが率いるパルチャム派(旗)とバブラック・カルマル率いるハルク派(人民)に分裂。 77年に再統一するも、78年にアミンが軍事クーデターを起こし、大統領であったダウド一族が処刑される。いわゆる、四月革命であった。 これに対して、ムジャヒディンが一斉蜂起。 ここから、20年以上に渡るアフガニスタン紛争へ突入する。 サウジアラビアからの資金援助や、アメリカから最新鋭の武器が補給されるも、その殆どはムジャヒディン達の手に届くことは無かった。 支援していたはずのパキスタンや、ムジャヒディンのリーダー達が、上前を搾取していたのだった。彼らの言い分は「アフガニスタンの為に、我々が預かるのだ」と。
バリーは煙草を吸いながら、大海原に沈み行く太陽を眺めていた。 空を赤く染めていた太陽は、やがて完全にこの世から消え、そして長い夜が訪れる。 「アフガニスタンに夜が明けるのは、いつになるのだろう・・・」 バリーは、自分に言い聞かせるように、小さく呟いた。
|
|