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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第192回   192
バリー・タウバーは、シカゴのオフィスで爆発事故に遭い、焼死体で発見されたと報告を受けた。
ブリュハノフは、即座に彼は、CIAに殺害されたのだと直感した。
「チョールトゥ!(クソ)」
握り締めた拳を、デスクに叩きつける。
タウバーには、前金として1000万アメリカドルを渡してある。それもキャッシュでだ。それが、すべて水泡に、帰したのである。
「タウバー商会の者には、連絡は着かないのか!?」
受話器を握り締めたまま、ブリュハノフは怒鳴り声を上げた。受話器の向こうから、部下がニェット(NO)と応える。意に反した部下の応えに、ブリュハノフは受話器を叩きつけた。

「1000万ドル!?」
ブリュハノフが声を上げる。
「ここのウラン鉱床は、恐らく世界最大だ。その位の、価値はある」
バリーは、ブリュハノフの目を見据えながら、笑みを浮かべた。
「この資源は、半永久的だ。恐らく、ものの10年でペイできるさ」

全くウランが手に入らない状態で、1000万ドルが消えてしまった。これが本国に知られようものなら、自分は命が無い。良くてシベリア送りで強制労働だろう。
追い詰められたブリュハノフは、自分の爪をかじりながら、最後の一手に出る。
アフガン国境を越え、誰も手を出さなかった悪名高きカイバル峠に攻め込む。ダウドのイスラム系政党を排斥した為、多くのイスラム協会のメンバーたちが、パキスタンのペシャワールに逃げ込んでいた。その中でも、国境付近のカイバル峠は、山賊の巣窟と呼ばれ、そこに足を踏み入れたものは、誰一人として生きて出られないといわれていた。
恐らく、シール・タリブは、そこに潜伏しているだろうと、調査の結果が出ていた。タリブを生け捕りにするしか、道は無かった。

ケイマン諸島。
グランドケイマン島で、食事を取っていたバリーに、クルーエルが耳打ちする。
「許が動いた」
その言葉に、バリーは席を立った。

解放軍総中国人民参謀部第二部の武官・許鳳竜に、バリーはこう言っていた。
「ソ連が、アフガンのウランを狙っています。アフガンがソ連に占領されれば、奴らが次に狙うのは、貴方がたが居る中国です」
ソ連と中国は、同じ共産主義として政治的に協定を結んでいたが、中国はソ連の圧力に頭を悩ませていた。1950年、ソ連はモンゴルのウラン鉱床の探鉱を始めていたことに、中国は遺憾の意を示していたのだ。
中国としては、アフガンのウラン鉱床よりも、ソ連に対する侵略を恐れていたのだった。
「中国が、ムジャヒディンへの武器補給ルートを確立していただければ、あとはムジャヒディンが、ソ連を食い止めるでしょう」
許はムジャヒディンが、ソ連を食い止めることなど、不可能だと言ったが、バリーはアメリカ政府が、ほんの数年でムジャヒディンに肩入れするだろうと返した。アメリカにとっても、アフガンは要衝であると見ていたからだ。
バリーは許に、武器補給に対しての金も支払うと言った。
中国としても、悪い話ではなかった。直接中国が、全く動かずともソ連の脅威を抑えることが出来るとあれば、これほど有益な話は無い。
「“借刀殺人”ですよ」
と言い、バリーが微笑んだ。
「敵已に明にして、友未だ定まらざれば、友を引きて敵を殺し、自ら力を出さずに損を以って推演す。“兵法の三計”ですか・・・」
自国の兵力を温存し、策を弄して相手国の軍を撃滅させるという意味だった。

その許が、ついに動いたのだ。
武器補給の永続的なルートが、パキスタン・中国と確立したことを意味した。
「これで、準備は整った。我々も出るぞ」
そう言うと、バリーは煙草をくわえた。


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