20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第191回   191
バリーとクルーエルのピックアップは、グランドケイマン南東にある、波止場に停まった。そこに停泊させてあったクルーザーに乗り込むと、舵を握っていたクルーエルが船を発進させた。
「皆、集合した。あんたが来るのを、楽しみにしてる」
クルーエルがそう言ったのは、船を発進させた数時間後のことだった。バリーは船首に出た。紺碧の海原の向こうに、小さな孤島が見えてきた。船着場に停泊させ、二人が島に上陸する。
「無人島を、買い取った。あんたの考えに、最適な島だろ」
クルーエルがバリーに言った。
「いい島だな」
バリーが、上を見上げた。ベトナムと同じ、ジャングルが広がっている。
そのジャングルを突き進むと、ジャングルの木々に囲まれた建造物が見えてきた。
「あれが、新生“タウバー・ファーム”だ」
クルーエルが、その建造物を指差した。見ると、倉庫とコンクリートで出来たバンカー(塹壕)がある。その奥で、数人のファティーグ(迷彩服)を着た、武装した男たちが立っていた。
「来たな、ルテナン(中尉)!」
一人の男が叫んだ。男が近寄ると、バリーの肩を叩く。
「久しぶりだな、パワーズ!」
バリーが応える。男の名は、トーマス・パワーズ。ベトナム従軍時、COSVN(南ベトナム中央局)攻略作戦時にバリーのSOGに入っていた男だった。
「あんたが生きてるって、デイビッドから聞いたときは、耳を疑ったよ」
「何とか、生き延びた」
バリーが微笑んだ。
クルーエルが、パワーズの隣にいた男を紹介する。
「こいつは、ラオス侵攻作戦で一緒に戦った男だ。マリーン(海兵隊)のSOGにいた」
男は、バリーに握手を求める。バリーは、それに応えた。
「俺の名は、ブルース・マッカビー。あんたの噂は、よく聞いた」
その体形から、思いもかけないほど、彼は知的な雰囲気を醸し出している。
「へえ、どんな噂だい?」
「女ったらしのタウバー」
「そりゃ、酷いな。俺は、こう見えても、女には一途なんだぞ」
マッカビーが、バリーの肩を叩いた。
「見え透いた嘘を」
バリーは、その隣に立っていた男を見た。
「お前は・・・」
クルーエルが、その男の肩を叩いた。
「俺が、誘ったんだ」
男は、バリーの顔を見上げる。
「何故だ・・・。お前は、戦争を嫌っていただろう?ホア・・・」
ホアは、出会ったときと同じ、屈託のない笑みを浮かべた。
「クルーエルから、お前の意志を聞いた。俺も、手伝うよ」
「ありがたい。お前が居れば、心強いよ」
クルーエルが、バリーの肩を叩いた。
「聞いたとおりだ。皆、あんたの考えに、賛同した男達だ」
バリーは、クルーエル、ホア、パワーズ、マッカビーの顔を見た。人数は少ないが、皆、一騎当千の優秀な男達だった。
「少数精鋭というわけだ。まさに、百人力だな」
バリーは煙草をくわえ、笑みを浮かべた。
「早速だが、KGBからの金のロンダリング(洗浄)は済ませた。それと、二日前にガーツからの金も入ったぞ」
クルーエルが言った。バリーは、煙草に火を点ける。
「俺は、もう少し死んだままにする。後は、許が動くのを待つだけだな」

アフガニスタン・カブール。ソビエト連邦大使館。
ユーリ・ボリソヴィチ・ブリュハノフが、デスクから思わず立ち上がった。
「何だと!?タウバーが死んだ!?」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1