バリーとクルーエルのピックアップは、グランドケイマン南東にある、波止場に停まった。そこに停泊させてあったクルーザーに乗り込むと、舵を握っていたクルーエルが船を発進させた。 「皆、集合した。あんたが来るのを、楽しみにしてる」 クルーエルがそう言ったのは、船を発進させた数時間後のことだった。バリーは船首に出た。紺碧の海原の向こうに、小さな孤島が見えてきた。船着場に停泊させ、二人が島に上陸する。 「無人島を、買い取った。あんたの考えに、最適な島だろ」 クルーエルがバリーに言った。 「いい島だな」 バリーが、上を見上げた。ベトナムと同じ、ジャングルが広がっている。 そのジャングルを突き進むと、ジャングルの木々に囲まれた建造物が見えてきた。 「あれが、新生“タウバー・ファーム”だ」 クルーエルが、その建造物を指差した。見ると、倉庫とコンクリートで出来たバンカー(塹壕)がある。その奥で、数人のファティーグ(迷彩服)を着た、武装した男たちが立っていた。 「来たな、ルテナン(中尉)!」 一人の男が叫んだ。男が近寄ると、バリーの肩を叩く。 「久しぶりだな、パワーズ!」 バリーが応える。男の名は、トーマス・パワーズ。ベトナム従軍時、COSVN(南ベトナム中央局)攻略作戦時にバリーのSOGに入っていた男だった。 「あんたが生きてるって、デイビッドから聞いたときは、耳を疑ったよ」 「何とか、生き延びた」 バリーが微笑んだ。 クルーエルが、パワーズの隣にいた男を紹介する。 「こいつは、ラオス侵攻作戦で一緒に戦った男だ。マリーン(海兵隊)のSOGにいた」 男は、バリーに握手を求める。バリーは、それに応えた。 「俺の名は、ブルース・マッカビー。あんたの噂は、よく聞いた」 その体形から、思いもかけないほど、彼は知的な雰囲気を醸し出している。 「へえ、どんな噂だい?」 「女ったらしのタウバー」 「そりゃ、酷いな。俺は、こう見えても、女には一途なんだぞ」 マッカビーが、バリーの肩を叩いた。 「見え透いた嘘を」 バリーは、その隣に立っていた男を見た。 「お前は・・・」 クルーエルが、その男の肩を叩いた。 「俺が、誘ったんだ」 男は、バリーの顔を見上げる。 「何故だ・・・。お前は、戦争を嫌っていただろう?ホア・・・」 ホアは、出会ったときと同じ、屈託のない笑みを浮かべた。 「クルーエルから、お前の意志を聞いた。俺も、手伝うよ」 「ありがたい。お前が居れば、心強いよ」 クルーエルが、バリーの肩を叩いた。 「聞いたとおりだ。皆、あんたの考えに、賛同した男達だ」 バリーは、クルーエル、ホア、パワーズ、マッカビーの顔を見た。人数は少ないが、皆、一騎当千の優秀な男達だった。 「少数精鋭というわけだ。まさに、百人力だな」 バリーは煙草をくわえ、笑みを浮かべた。 「早速だが、KGBからの金のロンダリング(洗浄)は済ませた。それと、二日前にガーツからの金も入ったぞ」 クルーエルが言った。バリーは、煙草に火を点ける。 「俺は、もう少し死んだままにする。後は、許が動くのを待つだけだな」
アフガニスタン・カブール。ソビエト連邦大使館。 ユーリ・ボリソヴィチ・ブリュハノフが、デスクから思わず立ち上がった。 「何だと!?タウバーが死んだ!?」
|
|