ポール・D・リブキン。 1937年、ニュージャージー出身。UCLA卒業後、57年に陸軍へ入隊、翌58年に国防総省DIAに在籍。64年に退役し、同年にSRCに入社。僅か1年で退社し、その後の2年間が空白となっている。そして、65年にFBIに入局。現在では特別捜査官となっているが、次期副長官の声も上がっている。 スティールは、DIAとSRCを更に注釈して書いていた。 DIAとはディフェンス・インテリジェンス・エージェンシー(国防情報局)。軍事情報を収集する諜報機関である。 SRCとはスタンフォード・リサーチ・センター(スタンフォード人間関係研究所)。人間の心理を研究する機関であり、主に帰還兵の戦争後遺症のケアを目的として設立された。だが、それは“表向き”の目的だった。「あくまで、これは噂だが」とスティールが矢印をして書いていた。 SRCの真の目的とは、人間の精神構造の解明である。つまり、人間をどのように操るか、集団での人間をどのように操るか、その研究機関であるとスティールが報告していた。 SRC退社後の2年間は空白が、退社してすぐにイギリスへ飛んでいる。 その後の足取りが不明だった。 「経歴が異色の、FBI特別捜査官というわけだ」 もしリブキンがCENTACのメンバーだとすれば、テッド・オーケンフォールドが言っていた「ワシントン司法当局に存在する」という部分が符合する。 そんな男が、シール・タリブの行方を追っているのだ。しかも、自分に対しては名乗りもしなかった。 「ファッキン・フェッズ(FBIめ)・・・!」 バリーは煙草をくわえ、火を点ける。 CENTACとは何だ? “影の政府”といわれる組織は、昔から囁かれてきた。ケネディを暗殺したとされるのも、“影の政府”いわゆる軍産複合体だといわれている。 CENTACが本当に存在するのなら、彼らも下部組織に過ぎない。 「本当に“悪い奴”は沈黙する。奴らは決して、真実を語ろうとしない。奴らが真実を語るとき、それは“死”を意味する・・・か」 バリーは小さく呟くと、口元に笑みを浮かべた。
リブキンは、すぐにバリーに連絡を取ってきた。
数日後、シカゴの事務所へ入った瞬間、デスクの上の電話が鳴り響く。バリーは受話器を取った。 「タウバーだな」 受話器の向こうから、聞き覚えのある低い声が聞こえた。 「アンタ、ポール・リブキンだろ?」 バリーが応える。 「この私から身分証を盗むとは、さすが“デボア”の後継者候補と言ったところか」 「何だ、もうバレたのか」 受話器の向こうで、リブキンが笑った。 「迂闊だったよ。お前がデボアの後継者候補と分かっていたら、あの時始末するべきだった」 「確かに、迂闊だったな」 バリーは煙草をくわえた。 「一つ聞きたいんだが、アンタはCENTACのメンバーなのか?」 そう言うと、くわえた煙草に火を点けた。 「そうだ」 リブキンが応えた。 「いやに素直に応えたな」 「当然だ。お前に対しての、これが冥土の土産になるのだからな!」 リブキンがそう言った瞬間、バリーが立っていた事務所に、一瞬の閃光が走る。そして、轟音を立てて爆発した。
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